top of page

『体験格差』って 何?! 一歩進んだ、米ポートランドから5つのアドバイス

a person holding help sign
Photo | iStock

1月に就任をしたオレゴン州の新知事。「一人ももらすことなく、家庭や地域社会で安全だと感じられる場所。そんな地域を作り出すために、身を粉にして働きます。」そう言って掲げた最優先的課題のトップ3 。


① ホームレスと予備層、生活困窮者へのサポート(メンタルヘルス・依存症ケア、行動療法など)② 経済の安定化 ③ 教育格差の改善



その3つ目の課題の『教育格差』。


コロナ前から、世界的に問題となっているのが生活困窮からの教育格差。そして、あまり聞きなれない児童・生徒の『体験格差』も浮き彫りになっています。


そんな中、同問題は日本でも!


でもこれって、「子どものいる人の問題でしょう~。」というあなた。直接の父母ではない方の社会と実生活に、直接どのように関わってくるのでしょうか。


あなたの5年後、10年後の生活。ここから、何らかのヒントが読み取れるかもしれません。


a child sits on a branch of a big tree
Photo | iStock

|コロナと教育格差...って言われても、自分には子供はいないし


日本の国会でも、やっと議論が始められた子育て支援や教育格差。とはいえ、その具体策についてはまだ示されていません。


今の日本では、就学期の子どもがいる世帯は(なんと)全体の18%!という現実。


ここから想像がつくのは、少子化や教育の問題は、子育て世代の問題だけでは止(とど)まらないということ。


経済、年金だけではなく、今ある社会。さらに今後の地域や国の問題として、限りなく広がっていくといわれます。


生まれ育った環境、生活収入によって多くの格差が生まれている。それは大人だけではありません。当たり前のことですが、子どもは自力では置かれた環境を変えることはできません。


まずは、ここ数十年、よく耳にする『教育格差』ということば。


では、これがどのようにあなたの住む社会に直接関係してくるのでしょうか。


それは、経済困窮家庭や社会保護を受けている児童・生徒。または、親が病気などで就労が出来ない、生活保護を受けている。そのような環境家庭の割合が高まるほど、社会全体が税金で養う必要性も高まってきます。


ですから、そのような児童・生徒が生活保護を脱して就労するようになれば、税金を払うことも可能になる。(とはいえ、教育格差からくる就労ハンディーという現実がありますが。)


すると、社会全体が支払わなくてはならない負担コスト。これを大きく引き下げることに繋がります。


これを地域や国の経済的価値に換算してみると、かなりの大きな数値に。だからこそ、貧困世帯や貧困予備層を救うシステムを構築することが大切になるのです。


当然、この教育格差を語る時には、お金(収入)の視点から多くが語られます。


では、教育に関係するのは『お金だけ』なのでしょうか。


a child sitting at a picnic table
Photo | Albertina Kerr

|「体験格差」、ごく一般に通るはず... なんじゃないの?


児童・生徒の『体験格差』ということば。最近、日本でも米国でもよく耳にするようになっています。


これは、お金と時間への体験投資というダブル要因。そこからくる格差という意味です。


わたしたちが成長する過程で、通常経験するはずのこと。例えば、家族との買い物、(ささやかな)外食、家庭での誕生日のお祝い、地域のお祭りやイベントに出向くとか。学校体験では、修学旅行、部活、友人とのファーストフード店でのおしゃべりや小遣いでの買い物など。


親や友人との交流や会話から、社会というものを学ぶ。これは、児童・生徒の人間形成にとって無くてはならない重要な教育そのものです。


このような、ごく当たり前とされる日常の経験・体験。それが、保護者の収入や親の身体的な障害・病気という家庭環境によって制限がされてしまう。または、全く経験・体験できない。そんな環境に置かれた児童・生徒が急激に増え続けています。


体験格差は、学力以外の『人が生きていく為に必要な力』に大きく影響を及ぼします。


同時に、考える力、理解する・想像する力、やり抜く力。そして何よりも、自己肯定感に関わってくるのです。


さらに、学習能力やIQを上げるのにも影響があるということもわかっています。


児童・生徒期の体験の欠乏と共に、形成されていく性格や性質。それを成人してから変える。これは、なかなか難しいというのは安易に想像がつきますよね。


そして、この体験格差は、学校を卒業した後の労働市場にも大きな影響を及ぼします。


成長していく上で、能力の形成にとって不可欠な体験。それが、『勉強に対する時間投資』と『体験に対する時間投資』の両方といわれます。


当たり前を経験することが困難になっている。さらに、コロナ禍でその格差が増している。そう、多くの教育関係者が警笛を鳴らしています。


そんな背景から、巨額の予算を投じて教育改善の一歩を踏み出したオレゴン州新知事。


では、お金以外の時間と体験という部分ではどうなのでしょうか。親として時間的余裕がない。または、自分には子どもはいないという方。具体的には、どのような事ができるのでしょうか。


ということで、ポートランドの有名な支援福祉施設から、『今すぐできる策』を特別に教えてもらいました!


child sitting by the window
Photo | iStock


Photo of Albertina Kerr
Photo of Albertina Kerr | Courtesy eventective

| 「吐き出す方法がわからない」ストレスからくる問題の先に


ポートランド市に立地するアルバーティナ・カー。オレゴン州・ワシントン州を示すノースウエスト域で、最も大規模(職員500名)で長い歴史を持つ(創立1907年)NPO子ども支援福祉施設です。


目指すところは、子どもたちとその家族の生き抜く力を個別にサポートすること。


生活の中で危機に陥った児童・生徒(5~17才)に、カウンセリングはもちろんのこと。安全で安心できる短期宿泊施設を提供。同時に、精神的な安定、精神鑑定、移転先の計画など。広い範囲のケアが充実しています。


その施設で、2019年からマーケティング&コミュニケーション部長を務めるジャネットさん。学生時代は中距離選手だったという。小柄な身体から温かいエネルギーがほとばしる、それは素敵な女性です。


開口一番、コロナ禍から、うつ病、不安神経症、自殺願望、薬物使用への興味増大・薬物依存症が急増したと言います。


必然的に、家から出られない生活の影響。加えて、日々の大人との会話、交流、体験不足が主な原因。そう、ゆっくりと話し始めてくれました。


「大人が想像する以上に、ニューノーマルという新しい日常が直接的に影響を及ぼしています。社会的交流の変化、親や周りにいる大人からのケアや目配りの減少。地域社会や仲間からの孤立など。見えない形で怖いぐらいに、少しずつ精神衛生面に浸透していくのです。」


パンデミックを機に、急激に新しい生活の型が世界各国で導入されました。いつ終わりをむかえるか判らないソーシャルディスタンス、休校、クラブ活動停止。医療用手袋やマスクの着用という未曽有の事態。


社会ネットワークの破壊から、人と心と身体の距離の取り方に混乱をし、不安や孤立を感じる児童・生徒が一気に増えたと説きます。



Jeanette stands in front of a canyon
Photo | Jeanette Holtmann Weston

| 今すぐできる(いや、してほしい!)「5つのアドバイスと方法」


「日本でも、精神状態がより不安定になる子どもが増え続けています。コロナ禍が長引くのと比例して、生活困窮世帯も増加。その結果として、日本中に教育格差や体験格差が広がっている現状です。


そこで読者に、そして同分野の組織に対して何かヒントはありますか。」


その問いかけに、5つのアドバイスを提示してくれました!


親・親族、そして地域の大人が、「子どもの心の健康を保つためにできる 5つの方法」


① 子供と一緒にスケジュールを立ててみましょう。


起床時間、就寝時間、食事時間。そして最も重要な、コンピューターや携帯電話のスクリーンタイムを話し合いによって決めて、それを保つ生活をおくること。


〚 因みに、米国小児科学会は、2才未満のスクリーンタイムはNG。2~12才の子どもには1日1時間。13~17才には1日2時間前後を勧めています。〛


② 大き目のカレンダー(またはホワイトボード)を使って、①で立てた家族や友人との活動、自分の自由時間などを事前に書き入れます。そしてそれを、家族が見えるところに置きましょう。


活動は、有償である必要などありません。地域の無料イベントなど利用することで、体験学習の数が広がります。


こうすることで、子どもたちは自発的に行動に移しやすく、かつ自由を感じることが出来ます。そして最大のポイントは、親が口うるさく言うというマイナス行動が、自然に減ってくるという点です。


③ SNS上でのコミュニケーションではなく、直接仲間と交流する機会を持つように促しましょう。


ネット上からだけの情報を得る。得た情報について誰とも話さない、話せない。自分で得た情報にについて、誰からも意見や修正がされない。


すると、自分の凝り固まった(好みの)思考に固まって閉じこもってしまう。特に子どもは、顕著に偏った思考に陥りやすいのです。


直接顔を見て意思の疎通をとる。このような社会的経験が少ないまま暮らしていくと、人間関係のひずみが生まれやすくなるというのは明らかです。


④ 親や信頼できる 大人との交流や時間を作り、意識して定期的に行いましょう。


大人とのポジティブな関係は、心の健康と成長を支えるために必要な要素です。人間関係や人生のストレス要因を、安全で信頼のおける大人と一緒に乗り越える。その様な経験・体験をした子どもは、大きくなってからも必要な時に必要な人に助けを求めることができます。


⑤ 学校や公共の支援を通じて、交流センター、無料体験学習。その他、必要に応じて健康・メンタルヘルス相談窓口やサービスを利用しましょう。(恥じることは一切ありません。)


親や親族だけでのケアは難しい。ですから、問題解決に向けて一歩を踏み出すための相談機関や窓口を探すことから始めましょう。


最後に、読者へのコメントを聞くと、優しい声で力強く答えてくれました。


「今、多くの子どもたちは、仲間や親、社会からの現実的なプレッシャーに直面する機会が倍増しています。同時に、コロナ、SNS、社会の変化などにも対応していかなければいけない複雑な時代です。


成人前のこどもが、この社会と繋がっていると感じられる経験は不可欠です。そのためにも、大切に思っているということを『言葉で伝えてあげて』ください。ほんの小さな言葉がけ一つで、彼ら彼女らの人生に明かりが灯りますから。


心を閉ざしたり、内向きになったりする原因は何なのか。批判ばかりする前に、その理由を考え気付いてあげてください。


今の時代と環境を見据えて、子どもを新たに守っていくことの必要性。そんな新しく具体的な取り組みを始める地域こそが、住民から求められる『住みやすい町』になるはずです。」


ジャネットさんの人生のモットーである、『包摂的なコミュニティーで、大切にされ、教育され、育まれることで、すべての子どもと大人は成長していける。』この表現が、心に強く響き続けます。



A child and an old man are planting plants
Photo | iStock

時間と体験に投資をするというのは、教育活動の大切なことがら。と言いつつも、親自身の経済的かつ心の余裕がないこのご時世。


国という行政の対策を待っている間。地域社会が、親と子が拠り所とする安全な場所を提供する。そんな時期なのかもしれません。


もし、そんな場所が一つでもあれば、親以外の信用できる大人から与えてもらえる会話や体験によって、児童・生徒の成長する幅も広がっていくのではないでしょうか。


とはいえ、そう簡単ではないのも解ります。


でも、児童・生徒が成長する過程でも、何らかの形でその地域・まちを担っている。ですから、まちづくり・地域活性は、ある意味、その地域の子どもの幸せ度と安心感と共にある。そう感じるのです。


大げさな事ではなく、あなたのやっていた何らかの日常の経験。それを「一緒にやってみない?」「グループとして行ってみようよ!」そんな小さな行いは、共有できるかもしれませんよね。


今、住んでいる地域の子どもに対する目線。それをほんの少しだけ意識し始める。そんなあなたとお話がしてみたいです。


次回は、今世界を襲っている『物価高』について深堀り! 地産地消で有名なポートランド。なのに、卵が1パック 750円+ ってどういうこと!? 原材料高騰のリアルな生活現状。価格高騰からの外食離れ現象も。中小店舗や企業は今、どのような工夫を強いられているのでしょうか? 3月中旬掲載です!


記:各回にご登場いただいた方や記載団体に関するお問い合わせは、直接山本迄ご連絡頂ければ幸いです。本記事掲載にあたってのゲストとの合意上、直接のご連絡はお控えください。









Comments


bottom of page