昨年11月に行われた米国の中間選挙。同時に、36の州知事選挙も行われました。
オレゴン州もその一つ。今回は、史上初の候補者全員が女性という部分でも、全米から注目が集中。激戦の末、勝利したのが民主党のティナ・コーテックさん。オレゴン史上最も長く州議長を務めたという経歴と共に、州史上3人目の女性州知事として1月9日に就任しました。
有権者は、口々に彼女をこう表現します。
『ばつぐんの頭の回転と機転の速さ。あっさり、前向き、あたたかい。』
そして、もう一つ注目を集めたこと。それは、レズビアンを公表して初めて選ばれた* 州知事という点です。
* オレゴンと並び、東海岸に位置するマサチューセッツ州知事も同様に公表しての当選。又、コーテック州知事は、自身の代名詞を she/her と表現しています。
自身の性的マイノリティーに関しての市民運動。人種的マイノリティーや社会的弱者に対する制度変革の訴え。弱い声に耳を傾けるという部分を全面的に押し出しての当選でした。
にもかかわらず、LGBTQに関しての発言は就任後にも一切なかったことに、驚く人が多くいたのも事実です。
その理由は、性的マイノリティーである自身が有権者に認められて当選をした。これからは壁を越えて、一人の州知事として社会に貢献していく。そんな考えがコメントから垣間見えます。
新州知事が今、苦心していることがら。それは、物価・エネルギー高騰、金利の上昇によるローン焦げ付き、中小ビジネスの低迷、ホームレスの社会復帰、生活困窮数の増加などです。
そして、これらの問題はオレゴンだけではなく全米共通の悩み。
今までの『普通』とされていた日常や生活基盤、はたまたビジネスモデルケースが揺らいでいます。コロナ禍の生活と経済の変化。多くの人々が、引き続き頭を抱えている現状です。
今、新州知事は、人々のためにどのような対策を打とうとしているのでしょうか。
これは、アメリカ西海岸3つの州の中で一番、経済的にダメージを受けているオレゴン州の話です。
でも、これから出て来る『経済の低迷』『物価・エネルギーの高騰による生活苦』『生活困窮、ホームレス予備層』『コロナと教育格差』という言葉に、あなた・あなたの周りの環境をあてはめて想像してほしいのです。
国や文化や超えて見えてくる問題点とヒントが、ここから読み取れると思います。
| 民主VS共和なんて、政治的なことを言っている場合じゃな~い
「民主・共和という政治的分断と対立が激しいのは事実。でも、それを超えて、州の住人のために改善をすることが先決です!」そう、静かにきっぱりと言い切ります。
「各党、『共通の使命感を持ちながら』などという考えは難しい。それは十分に承知しています。でも、互いに出来る範囲で協力をし合わない限り、先送りできない問題は解決しない。そこまでシビアな状況なのです。」
ー 新知事として、優先的に即取り組む課題のトップ3 ー
① ホームレスと予備層、生活困窮者へのサポート(メンタルヘルス・依存症ケアー、行動療法など含め)
② 経済の安定化
③ 教育格差の改善
同時に、行政内の改革もうたいます。「公共サービスとは、顧客サービスという意味でもあり、州におけるすべての活動の焦点でなければなりません。行政のサービスとは、州の住人が必要とするものを提供し続ける。これにつきます。」
ようするに、『行政的障壁を取り払って、公共サービス従事者として州の住人のために働く意識を忘れるな』ということをストレートに述べています。
さらに、こうサラリと付け加える新州知事。
「こん日の課題に対応できない時代遅れの行政内の仕組み・システム、そして行政職員の思考の改善が必須です。より効果的な実務が、よりスムーズに運ぶシステムを構築すること。多方面での改革が必要とされています。
複雑な問題に対して結果を出す。それは、弱者とよばれる小さな声にも耳を傾け、詳細を調べ、解決策を考えること。行政のあらゆるレベルで、より良い結果を一つでも多く出すように日々努めることのみです。」と優しいまなざしで力強く説きます。
| オレゴン州の課題は、全米都市圏共通の問題。ホームレス予備層と生活困窮者の増加
ホームレス問題は、米国主要都市の大きな問題となっています。リーマンショック後から増加するところに、追い打ちをかけたパンデミック。
『シェルターや施設の拡大。それに付随する人的支援の必要性。想像を絶する数のメンタルヘルスを抱える人。親やパートナーによるDVから逃げ隠れている人。この部分のサポートを見落とすと、ホームレス問題はループ化に陥ります。』こう、著者が書いたのが2021年年末*。
このような現下、就任初日にはさっそく非常事態宣言を発令。
年間3万6千戸(現在より80%増)の新規支援住宅建設を求める州知事令に署名して動き出しました。
1年以内に、1200人強の路上生活者を整ったシェルター生活に移行する。その目標のため、1億3,000万ドル(約166億2,400万円)の援助プログラム予算を通常州議会に提案すると述べます。
この予算で、コロナ禍で職を失ったシングル・ペアレント、家賃を払いきれずにいる生活困窮者、現在家を失う危機にあるホームレス予備層もカバーするとのこと。
「路上生活者をこれ以上増やさないためにも、この取り組みは州にとって必須プロジェクトなのです。
このことで、納税者の暮らしと安全も守ることができる。そんな仕組み作りを行います。」
非常事態を宣言することで、州政府は納税者の資金の使い方。さらには、州の土地利用規則の実行方法について柔軟に対応ができます。
とはいえ、建築資材や労働人材不足という現状の中で、どのように地方自治体や協働民間企業が目標を達成していけるのか。具体的な今後の策に、多くの人々が注視しています。
| まずは、州内の経済の安定化。国際貿易、そして日本への対応は...
「主要都市であるポートランド市が健全で経済的に繁栄すれば、オレゴン州全体がその恩恵を受けます。
しかし、ブラックライブズマター時の破壊行為~コロナ禍のダウンタウンを中心とした町の停滞。それに影響されたビジネスの廃業や低迷。問題が長期化する上に覆いかぶさるような物価高騰。
新州知事として、ポートランドや近郊市の家庭や企業が苦しんでいる姿を、ただ傍観しているわけにはいきません。」
経済学的にみると、他州に比べてコロナによる雇用喪失から驚くほど早く回復したオレゴン州。しかしこのままだと、景気後退に向かう可能性が高いと警告されています。
このような状況下、今議会で、任期2年間の予算を立てることは最大の議題。
例えば、インフレ削減法とインフラ・雇用法を通じて、米国連邦政府の資金を活用。そこから、新しい雇用の創出、気候変動の緩和、州の半導体産業の成長、経済への資金投入の促進。
それにしても、ここまで話を聞く限り国際貿易という言葉は一切聞こえてきません。
やはり新州知事の過去の働きからに見ても、人権問題、社会の仕組みの改善といった分野に長けている方。国際関係や貿易分野での経験はほぼ無いようです。
そこで一歩踏み込んで、国際貿易、特に日本との関係についてストレートに聞いてみました。
「前州知事から引き継ぐ形で、多種多様な日系企業の誘致。良き関係を築いている輸出入と拡大に力を入れていきます。
農産物の貿易は、物価高騰による影響もありますが、引き続き州のブランドを広める。そして、さらなる関係作りを構築していくことを約束します。」というコメントにとどまりました。
正直、ちょっと気落ちしていると、「次回会う時には、もう少し先を見通せる余裕が出てくるはず。その時には、日本に関してのレクチャー。それも『未来に向けた情報を学ぶ内容』中心で。」とお願いされた著者。
このインタビューを通して、ふと、楽天の社長がテスラを起こす前のイーロンマスク氏について語った内容が重なり合いました。
| 政治の素人。だからこそ、業界の既成概念を超えて未来を作り出す
言ってみれば、彼女の強みとはアマチュア精神を持っていること。でも、ただの政治のセミプロということでは無く、わからない分野に関しては、その道のプロの意見を徹底的に聞く。そして、それを学習し取り入れ行動に移す。そこに変なプライドを持っていないのです。
良いことも悪いことも全て机に上げて。皆で前に進んでいきましょう、というスタンス。
今、通常の暮らしに劇的な変化が繰り広げられる私たちの生活。
新しい時代の未来を構想していくためには、その業界の既成概念にとらわれすぎることは、『足かせ』になります。第3者的に物事を観察し俯瞰する姿勢や視点が、さらに必要となる時だと感じます。
だからこそ、想像がつきにくい未来を作り出すためには、『物事の本質を見据えるシンプルなものの見方』が必要なのではないでしょうか。
最後に新州知事は、こう説きます。
「すべての住民、いや、住む場所や文化を超えた仲間としての皆さんにお願いがあります。
私たち行政は力を尽くします。同時に、行政だけでは出来ない部分が多くあります。真の変革と前向きな変化のため、皆さんの力と行動がどうしても必要なのです。
一人ももらすことなく、家庭や地域社会で安全だと感じられる場所。そんな地域を作り出すために、州知事として身を粉にして働きます。」
目まぐるしく、想像以上に速いテンポで変化を遂げていく私たちの環境と暮らし。
コロナ以前にとらわれたり戻るのではなく、2023年にふさわしい『新しい姿に変わっていく、変化していく』必要性を感じます。
今までとは違う、ささやかな行動をきっかけとして、想像もしなかった新しい宝物にたどり着くかもしれません。
あなたにとっての今。2023年の小さな一歩は何ですか。
次回は、新州知事の3つ目の課題 『教育格差』について深堀り!国や地域の未来を担う子供。その根源となるのが広い範囲での教育です。特に、今問題となっているのが『生活困窮による教育格差、コロナによる登校拒否や心の問題』。子どものカウンセリングを担う地域NPOを交えて、最新スキルと情報をお届けします。2月中旬掲載です!
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