日本人選手が驚異のメダルラッシュを達成し、テレビに釘付けになっていたパリ・オリンピック。
その裏では、ハリウッド映画さながらの展開劇が大統領選で繰り広げられていました。
トランプ襲撃事件からわずか1か月。バイデン氏の突然の撤退宣言に続き、ハリス氏が選出されるまでのスピード感は、まさに嵐そのもの。
暗殺未遂事件さえも霞んでしまうほど、米国の政治界は激動の嵐に見舞われていました。
そんな中、ハリス氏が副大統領候補に指名したのが、ウォルズ氏(ウォルツとも表記される)。
「えっ?誰?」っていう位、米国内でも低い知名度。元教師から政界入りを果たした人物です。
農村地帯で生まれ育ち、高校時代にはわずか24名の同級生のみ!その半数が親戚関係だというのですから、驚きです。(ちなみに、筆者が住む『中規模都市』ポートランド近郊では、平均的な高校の一学年人数は600〜700名。)
野球帽にヨレたTシャツという、政治家らしからぬ装いから、米国メディアは彼を『田舎の普通のおじさん』と紹介します。
そんな元高校フットボールのコーチでもある彼は、大きな笑い声を響かせてこう言い放ちました。
「トランプとヴァンス、あいつらキモすぎ~」。この大胆でストレートな発言が、ミレニアル世代やZ世代にバカ受け。
トランプに対する真の対抗馬が現れたと、瞬く間に話題をさらいました。
さらに、ハリス氏がウォルズ氏を選んだ理由の一つ。それは、広い支持層を引き寄せることができるから。
トランプ陣営の切り札であるヴァンス氏が、中産階級や低賃金労働者層を『根こそぎ刈り取る』(農耕地帯だけに⁈)とされる中、その対抗策としてウォルズ氏が指名されたのは必然だったようです。
今回は、日本のメディアではあまり語られない『大統領選挙の裏話』特別篇第2弾。
今回の大統領選挙のカギを握るとされる中西部の労働者層。特に、代々、極貧生活から抜け出したくても抜け出せない白人貧困層・低所得労働者層に注目が集まっています。
当然、そこを狙うのが副大統領候補の両者。
ヒルビリー現象とも言われる、代々逃れられない貧困の呪い。底辺の職にしかつけず、アメリカの繁栄から見捨てられ、ゴミと揶揄される人々。
アメリカの影となる貧困の歴史と文化的背景が、今回の大統領選挙とどのように関係するのでしょうか?
さらに、そこから浮かび上がる『日本の社会問題との驚くべき共通点 ‼ 』をわかりやすく解説します。
日本の報道はアメリカ民主党の翻訳版?
現在、日本のメディアではハリス優勢というニュースが頻繁に流れています。
しかし、ここで押さえておきたいポイント。
それは、米国メディアの特性です。日本では考えられないことですが、米国のメディアは民主党派か共和党派のいずれかを支持しています。
日本で流れる情報の多くは、民主党寄りのメディア報道を訳したものです。そのため、リベラルなバイアスがかかり、日本のニュースは米国全土の現実とはズレがあります。
大統領選挙のカギを握る【 Rust Belt(サビついた工業地帯)】と呼ばれる中西部州のオハイオ、ペンシルベニア、ウィスコンシン。
この地域こそが激戦州、選挙を左右する要の州!
そして、これらの製造業地域に住む多くの人々は、保守派メディアを見聞きし、参考にする傾向が非常に強いのです。
「ほぼトラ」から「もしトラ」に降格した感があり、危機感を募らせているトランプ陣営。
そんな中、今保守派メディアが連日取り上げているのが、トランプに忠誠を誓った副大統領候補ヴァンス氏と彼の驚愕な生い立ちです。
トランプの狙いはここに!最年少副大統領と『ヒルビリー・エレジー』の深層
トランプ氏がヴァンス氏を副大統領候補に選んだ理由のひとつ。それは『わずか39歳という若さ』。
もしトランプ氏が当選すれば、自動的に1857年以来の最年少副大統領の誕生となります。この話題は、「もしハリス氏が大統領になれば、初の女性大統領誕生!」という声とともに、アメリカ中で語られます。
さらに、トランプ氏がヴァンス氏を選んだもう一つの理由。それは、『極貧の生い立ちと労働者層からの圧倒的な支持』。
その象徴となるのが、ベストセラー回顧録。その内容はNetflixでも映画化され、劣悪な家庭環境から有名大学へと進み、そこから上り詰めていく。まさにアメリカンドリームを体現する道のりが描かれています。
しかし、映画については「書籍に描かれたリアルに比べて、映像が美化されすぎている」「ヒルビリーの現実はもっと過酷で厳しい」といった声も。
その回顧録『ヒルビリー・エレジー~アメリカの繁栄から取り残された白人たち~』は、ヴァンス氏が副大統領候補に選ばれたことで、再び国際的な注目を浴びています。日米のAmazonでは一時売り切れ状態が続き、入荷待ちとなるほどの人気です。
ちなみに、ヒルビリーという言葉は、『極貧生活から抜け出せない、白人低層労働者の嘆きと叫び』を象徴しています。
ヴァンス氏が握る、激戦州の白人労働者の一票。それこそが、トランプが秘めた深遠な意図なのです。
では、このアメリカンドリームの体現者は、どのようにして厳しい生い立ちから米国政治の最高レベルへと上り詰めたのでしょうか?
アメリカの影に沈む、白人貧困層の叫びと現実
「貧困は代々、その家族をがんじがらめに縛りつけ、逃れられない呪いのようなものだ。奴隷時代の先祖は日雇い労働者、次の世代は小作人、その後も炭鉱夫、機械工、工場作業員。底辺の職、最低賃金(以下)の職にしかつけない。職にありつけるだけ、まだましな方。彼らは長年、アメリカの繁栄から見捨てられた『ホワイト・トラッシュ=無学の白人ゴミ』なんだ!」
ヴァンス氏自身は、生まれ育った地域と人々について苦い思い出として回想します。
かつて、中西部の至る所にあったMade in USAの工場。しかし、時代の流れとともに安価な海外生産国へと次々に移転していきました。
工場が消え、地域はゴーストタウンと化し。正社員としての安定した職など、今や夢のまた夢です。
他の都市に逃げ出したくても、学も金も無い。日々の食事すらままならない絶望的な貧困。
明日への希望などとうに失われ、どうやってこんな暮らしから抜け出せるのか、考える余裕さえ奪われています。
これが、中西部のサビついた地帯に深く刻まれた『代々続く、白人貧困層・低所得労働者層の絶望と嘆き』なのです。
現在、米国で謳われているDEI(多様性・公正性・包括性)。それを享受しているのは、都市部に住むリベラルな民主党支持者たち。特に黒人、アジア人、ヒスパニックやマイノリティーが中心です。
この現代の風潮は、白人地方貧困層をさらに絶望の淵へと追い詰め、社会から孤立させています。
「学もなく、声を上げる手段も持たない心の叫びを、シンプルな言葉で代弁してくれた唯一の存在。それがトランプ氏なんだ!」とヴァンス氏は熱く語ります。
米国ヒルビリーの投影、日本の貧困の現実
ヴァンス氏の書籍は、アメリカの労働者階級が直面する貧困の現実を鮮烈に描き出しています。彼の幼少期の体験は、貧困が個人やコミュニティ全体にどれほど深く、そして破壊的に影響を与えるかを浮き彫りにしています。
彼の生い立ちを日本に置き換えると、こんな感じかもしれません。
「主要産業も皆無な荒れ果てた地方に生まれ、極貧の家庭で育つ。県外へ出る力も、資金もなく。親からの暴力やアルコール中毒、ドラッグという環境に苦しみながらも、必死に勉学に励む。自衛隊に入隊後、防衛大学校に進学。奨学金を得て東京6大学に進むが、コネもなく、就職活動でエリート社会と自分の生い立ち、文化や振る舞いの差に愕然とする。絶望の淵から何度も立ち上がり、ついに地方議員から国政へと進出...。」
アメリカで起こっている現象が示すヒルビリーの現実。それは、日本における貧困問題とも痛ましく重なり合って見えます。
現代の日本では、貧困は一見しては分かりにくいのが特徴です。戦後の混乱期や他国の極貧生活者のように、ぱっと見で分かるような苦しさが隠されています。
「貧困といいながら、高価なスマホを持っているじゃないか!」という安易な批判もよく耳にします。
しかし、今やスマホがなければ、生活が成り立たない時代です。特に貧困家庭にとっては、唯一の外部との交信手段であり、命を守るための必須品となっています。
現代では、出費の優先順位がすでに変化しています。スマホやインターネット代を優先するために、光熱費や食費を削らなければならない時代です。
日本の経済格差は広がり続け。困窮する家庭では、子供の栄養源を給食に頼るしかない現実。夏休みが近づくたびに、子供の食事が減ることを心配する親が急増しているのです。
子供の貧困は、近年の統計で9人に1人。つまり、日本の1クラスに複数の子供が貧困家庭で育っているという事実。
ヒルビリー現象が写し出す、経済大国1位アメリカの影。それを他国の問題として傍観することは、もはやできない気がします。
経済大国第3位の『美しい国と評される』日本。しかし、その美しさの裏側には深い現実が横たわり。今、私たちの前に、鏡のように映し出されているのではないでしょうか。
現時点で、支持率が拮抗している大統領選。
国の未来を揺るがすインフレ、外交、銃規制、難民、中絶問題、さらには国際紛争。山積するこれらの課題に対し、選ばれしリーダーがどのように手腕を発揮するのか。
特に、国民が切望しているのは物価高への解決策。
現時点で、ハリス氏は「バイデン政権を引き継ぐ」と言うだけで、具体的な経済政策は示していません。一方、トランプ氏の極端な経済論理は「クレイジーだ」との声も多く聞かれます。
9月10日に予定されるTV討論会で、両者の論争は激化するでしょう。さらに、10月1日には副大統領候補同士の討論も控えています。
無論、次期大統領によって、日本の経済、円安、物価、さらには日米・日中関係の行方が大きく変わることは、火を見るよりも明らかです。
11月5日の投票日まで、残された日は約80日。
歴史に新たな章が刻まれる瞬間が、今まさに迫っています。
次回は、先日オープンしたばかりの『ポートランド空港・新ターミナル』にフォーカス! 全米優秀空港を誇るPDX。そこで、著者の長年の友人でもある、ポートランド空港のトップに特別インタビューを敢行。(オープニング前夜祭のプライベートパーティーの様子もレポートしちゃいます~。)
持続可能、地産資材使用デザイン、ローカルコンセプト。全米初・一番を謳う空港とは? 経済に大きく関わる、日本への直行便復活の可能性は?
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