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【物価高】価格改定の真の意味って?! 今の時代だからこそ、米ポートランド・ラーメン店がめざすコト

bowl of ramen
キンボシラーメンの特別メニュー。日本人シェフが考案した『昆布だしヘーゼルナッツ・ビーガンラーメン』。オリジナルのトッピング(紫キャベツ、スパイシー椎茸など)が、コクのあるスープと絡み合う人気の一品。 Photo | Kinboshi Ramen / Alan Weiner

値上げラッシュが収まる気配が見えない日本。でも、それ以上に急激な物価上昇が続いているアメリカ。


その物価上昇たるや、ものすごいスピード。その上がり方が半端じゃない!と日々感じています。


2023年2月の物価指数は6.0%。(米国労働省発表)


ピーク時の2022年6月には、9%超え。でも、2023年3月現在にかけて、8か月連続で前の月を下回っているというデータ。


数字的には、記録的だったインフレが落ち着く兆しが見えているのです。


とはいえ、アメリカ、特に西海岸に生活をしている多くの市民にとって、この物価高を痛いほど感じていることに変わりはありません。


そんな矢先、2023年3月、カリフォルニア州にあるシリコンバレー銀行が破綻。全米で一番物価の高いサンフランシスコ近郊では、新しい形での物価変動が起こる懸念も語り始められています。


このような大企業が連なるカルフォルニアとは、傾向がだいぶ違うオレゴン。中小規模企業が約80%という州です。そんな環境から、約70%が中小企業という日本と引き合いに出されることも多くあります。


値上げラッシュの今、主要都市ポートランド近郊の物価は、どうなっているのでしょうか。さらに加えて、外食産業のリアルな現状とは、どんなものなのでしょうか。


コロナ禍のトンネルを抜けたと思いきや、新しい形で痛手を被っているレストラン業界。特に、近年のブームにあやかって増え続けたラーメン店。小麦、卵、鶏肉の上昇に頭を抱え、その多くが閉店に追い込まれています。


このような現状の中でも、売り上げを着実に伸ばし続けているポートランドのラーメン店があります。『薄利多売を強いられるビジネス』へのヒントを含め、オーナーに語ってもらいました。


※ 以下、1ドル=135円換算表示


supermarket egg rack
ごく普通のスーパーに陳列されている鶏卵。(決して高級店ではないのに)1ダース、600円からナント1560円!! まるで、パック売り牛肉のような値段。実は、この店舗では数週間前まで、『供給不足のため、おひとりさま2パックまで』という制限が! 「こんな表示と価格は生まれて初めて見た」と現地の人々の困惑した表情があちらこちらにも。 Photo | PDX Coordinator, LLC・Yayoi Yamamoto ※今回は、ポートランド近郊住人の嗜好や公平性という視点から、中級レベル(ごく一般の)スーパー価格を例としています。 

|米国内の物価上昇トップは、卵、鶏肉、油脂、小麦


2022年の食品系『値上げ幅が大きい トップ5』(米国政府統計最新情報)。


1位: 卵  2位: 鶏肉  3位:油脂  4位:穀物・小麦 "製品"  5位:生鮮果物・野菜


この中でも断トツなのが、卵。2021年12月以降、価格は60%以上の値上がりをしています。米国で1ダースの平均価格は、4.50ドル程(約600円)。これは、1年前の2倍以上の価格です。


すでにご承知の通り、インフレの影響。そして、最大の理由は鳥インフルエンザとされています。米国国内で、約6000万羽もの鶏が犠牲になった背景も深刻です。


では、オレゴン州主要都市ではどうでしょうか。


多くのメディアが取り上げている、アメリカの物価高。西海岸の他州に比べると、オレゴン州の物価高騰はそこまでひどくはない。出張で他州を頻繁に訪れる筆者は、そう感じています。


とはいうものの。色々なスーパーを周ってみましたが、大体、地鶏卵が1ダース約6ドル(約800円)。オーガニック放牧育成卵に至っては 10ドル!(1,350円)。


消費税は掛からないオレゴン州。ですが、健康志向などからオーガニック製品・食品を好む傾向が強い市民は頭を抱えています。


supermarket bread shelves
セール価格になっているハンバーガーのバンズが約540円(通常740円)。サンドイッチ用は、セール価格で約800円(通常900円)。家族が多く、毎日サンドイッチをランチに持たせる家庭では、パンの卸売センターやコストコで大量購入する人が急増しています。(アメリカでは、安いパンほどカビがほぼ生えない位、多くの添加加工がされているのは怖いところ。) Photo | PDX Coordinator, LLC・Yayoi Yamamoto

次に、アメリカ人の食卓に欠かせない小麦。パン、シリアル、パスタ、トルティアという製品価格に大きく反映されています。


小麦、トウモロコシ、ヒマワリ油の主要輸出国であるウクライナ。そこにロシアが侵攻したことで、食糧とエネルギー価格に大きな圧力をかけているのは、すでに多くのメディアが報道しています。


ところが、それ以外の要因としてアメリカが大きく影響している。このことについては、日本でもあまりニュースになっていません。


それが、近年の『気候変動の影響による干ばつ』。


この数十年間、高温・乾燥に見舞われているアメリカとカナダ。それによっておこる不作。さらには品質の低下。そのような理由から、(日本を含む)先進国が求める高品質な小麦の調達価格も軒並み上昇しています。この気候変動も、インフレを助長している要因の一つなのです。


supermarket breakfast cereal shelves
すこし大き目パッケージの家族用シリアルは、セール価格で1000円。通常サイズ約810円。それに比べて、右端のライス(米粉)シリアルは少し安めで740円。こんな高いシリアル価格は、長年米国に住んでいる著者でも見たことはありません。 Photo | PDX Coordinator, LLC・Yayoi Yamamoto

| 食品以外では、電気代も。


日本同様、ポートランド地域を網羅する大手電力会社2社が、1月にさらなる値上げを実行しました。


現在の全米のインフレ率は6%。でも、エネルギーコストについては、13%上昇という厳しい現実があります。


一般住宅での例を1つ挙げると。月780キロワットを使用する小規模な住宅では、月額115ドル(約15,500円)が 123ドル(約16,600円)となって、約7%の値上げ。


さらに言えば、セントラルヒーティングという米国住宅の特性。中規模以上の家やオール家電の家。そして何よりも外食産業に携わる人にとっては、経営の大きな圧迫要因となっています。


これ以外にも、値段上昇が著しいものとして。住宅・建築素材、石油・ガソリン・エネルギー関連、食料品全般、輸入関連製品。そして、人件費。


そこで、統括する形で出ているのが外食費の上昇です。


|当然、外食価格にも想像以上の影響が!


2023年に家庭での食品費が3〜4%上昇するのに比べ、外食費は最低でも5%は上昇する。そう米国農務省が予測しています。メニュー価格上昇のため、ディナー外食を控える家族がますます増えている様子もうかがえます。


では、現在のポートランド近郊の外食ってどんな感じなのでしょうか。


日本でも、主に外で食べるのはランチ時。そんな傾向から、ここではランチを例として見てみましょう。


例えば、町中華の店でのワンプレートとソフトドリンク。レストランですからチップ(15~20%)を加算すると、合計3,000円弱。


日本人にとって、ちょっと理解しがたいチップ制度。実は、給与の一部としてなされているため、レストラン業界で働く人にとっては重要な収益となっています。


そのチップ(要求額?)も軒並み値上がり。因みに、レシートに記載されている参考チップ率というものがあります。それが、ポートランドでは20%が平均。でも、他の西海岸主要都市になると最低で20%。さらに25%、28%+というのもざらです。


では、チップは基本不必要なファーストフード店ではどうでしょうか。世界標準として比較しやすいマックセット(バーガー、ポテト、ドリンク)。これは、合計額は約8~10ドル+(1,300円+程)。ということで、通常レストランに比べると半額程度に抑えられます。


この外食価格高騰で、ファーストフード店は大繁盛。でも、レストラン業界の慢性化した人材不足という要因もあって、ランチタイムのドライブスルーは長蛇の列が常です。


全米の中でも、地元密着型ビジネスが多いことで有名なポートランド。まちの中小規模の外食店は、どのように奮闘しているのでしょうか。


原材料、電気・ガス、家賃、物流・輸送コスト、人件費、生産コスト、そして天候など。このような要因が複雑に絡み合っての価格高騰。そこをどのように、ビジネスを運営し前進しているのかを深堀りしていきましょう。


Handmade ramen noodles
Photo | Kinboshi Ramen / Alan Weiner


People waiting in front of a ramen restaurant
Photo | Kinboshi Ramen / Alan Weiner

日本の関東を中心に店を構える、まるきんラーメン。有名芸能人にも、そのファンが多くいることでも知られています。そのマルキン・ジャパンとのパートナーシップとして、2015年に海外第一号店としてスタート。ポートランドのラーメンブームを牽引してきました。


オープン以来、店内はラーメン好きの人々で溢れて活気を帯び。本格派ラーメンがついにポートランドでも市民権を得た。長蛇の列をTVカメラでとらえながら、熱いレポートを送った記憶がよみがえります。


「コロナ禍の2021年にパートナーの所有権を買い取り、キンボシラーメンという名前に変更したのです。」オーナーのデイビッドさんは、満面の笑みで話を始めます。


オーナーシップを買い取ることで、本来提供してきた品目以外のメニュー拡大が可能になったとのこと。


「特に力を注いだのが、ポートランド近郊に多くいるビーガン向けのメニュー開発です。元来の鶏や豚ベースのスープ。それを、ビーガン用のスープに変更するために改良を重ね。今では、店の人気メニューとなっています。それぞれのお客様の食生活と嗜好に寄り添う形で、日替わり、季節メニューなどが多いのが特徴です。」


アメリカにおける、80年代からの寿司ブーム。その後に巻き起こったのが、東と西海岸を中心とした近年のラーメンブーム。


驚くことに、コロナ禍から現在の物価高騰でも、キンボシラーメンの人気は衰えることを知らないと言うデイビッドさん。


日本人シェフが率いる、麺から手作りをしている本格的なラーメン店で働きたい。そう望むアメリカ人は後を絶たない。そう話しながら、コロナ禍の話へと移行します。


「私は企業のオーナーとして、勝ち続けることに常に心を向けている。それはビジネス的にという意味と同時に、お客様の心の中で勝ち続ける。そんな意味合いが強くあります。ビジネスの基本のきである、お客様との信頼関係。コロナ前からコロナ禍でも、引き続き支え続けてくれたお客様があってこそ。商売というものは成り立っていくわけですから。」


コロナ禍では、必然的に3カ月ほど休業。その期間、ラーメンをパッケージして届けることを計画し、独自のパッケージからなるデリバーサービスを開始します。


その後、通常店舗の運営に戻り。現在では25名の従業員を抱えて、毎日8種類のメニューを提供しているキンボシラーメン。


Ramen and Gyoza
Photo | Kinboshi Ramen / Alan Weiner

|原材料価格との戦い。でも、それより大切なもの


それでは、最近の原材料の価格高騰の影響から、キンボシラーメンの価格はどう変化をしているのでしょうか。


「仕入先は、軒並み原材料を値上げ。さらにそこに加えて、それらの配送料の値上げも。苦しい現実ではありますが、当店のメニュー価格の値上げに関しては、最低限に留めることに成功しています。


何よりもありがたいこと。それは長年のお得意様が、値上げに対して『理解』を示してくださっている点です。」


現在のメニュー価格は、ラーメン15ドル~(約2千円)。餃子10ドル(1,350円)。人気が高い親子丼10ドル。各量は、ほぼ日本と同じです。


日本では、ラーメンにこの値段を出すなんて馬鹿げていると思うかもしれません。


元々、安くて美味しい庶民の食べ物というイメージがあるラーメン。でも、今と昔のラーメンとでは大きな違いがあります。良質な素材、材料コスト、常においしさを求める客層のニーズに沿っていくと、安く提供することは難しい。


にもかかわらず、今の経済状況からは、日本のラーメン店は価格を低く設定するしかないという現実。


それに比べてアメリカ国内では、『ラーメンは2千円位するもの』と最初から広まっていった背景があります。


あえてスープは全部飲まず。持ち帰り容器に入れて、次の日のスープランチとする。持ち帰り文化からか、2食分の価格という考えをしている人も多い。こんなことからも、日米のラーメンに対する考えが違うことがわかります。


それでは、今の人手不足による『人件費高騰』という問題。それがメニュー価格の変更に繋がる現実。この点は、どう売り上げに響いているのでしょうか。


「料理の仕込みに細心の注意を払い、お客様に喜んでいただけるような料理を作りあげる。それを担う働き手に十分な給料を払う。総合的なビジネスの視点から見ると、人件費がマイナス要因になったことはありません。


だって、良い作り手(働き手)がいなければ商売は成り立ちませんから。これは、どんなビジネスでも同じことですよね。


中小企業で働く人とその生活を支援する。そんな意味からも、弊社では常に市場価格以上の給与を支払ってきました。加えて、他の一般外食企業では稀ですが、健康保険や退職金制度も設定しているんです。」


物価上昇に見合った価格設定にする理由。それは、従業員の給料の確保、すなわち働く人の生活向上に直接つながるという真っ当な理由。


ラーメンの粗利の中から出している給与。そのためにも、その価格に見合う価値のある一品を提供すること。そんな基本を良しとする姿は、まぶしいぐらいです。


さらに、『人件費以外の小麦粉や卵などの原材料の高騰』について説くデイビッドさん。


「コロナ以前や2022年に比べて、原材料価格は大体10%から30%上昇しています。残念なことに、サプライヤーは前年度分の損失を取り戻そうと躍起になっている感じです。」


では、これに対応するため。どのような策を案じているのでしょうか。こう問うと、この様な時だからこそ、ビジネスの基本に立ち返ることが最も大切だと続けます。


「当たり前とされることをする。すなわち、おいしい料理を作り続ける。 お客様と同様スタッフも大切にし続ける。 私たちの周りにある地元ビジネスをサポートし続ける。 難しいことを簡単にする策を案じ実行し続ける。


閉店してしまった町の多くのレストランと同じように、キンボシラーメンも今なお弱い立場に置かれています。でも、互いに思いやりを持って、持続可能なビジネス形態を追及していくこと。これがなによりも、今の時代には必要なことだと痛感しているのです。」


地元の中小企業をサポートしてあげてください。一人ひとりの思いやりと支援が、そのビジネスの底力となるのですから。


最高のイノベーションは、チャレンジがある時に必然的に生み出される。そう締めくくってくれたデイビッドさんの笑顔は、多くのポートランドの人々の心に焼き付いているはずです。


Ramen restaurant entrance
Photo | Kinboshi Ramen / Alan Weiner

生活必需品の高騰から、価格破壊系の店舗だけで買い物をする。それはそれで今のご時世、仕方のないことだと感じます。


でも同時に、地域の中小企業へのサポートがより一層必要になってきている。このことも忘れないでほしいのです。


地域密着型のお店でモノを買い、食べる。そうすることで、中小企業で働く人に必要な賃上げは、より身近なものになっていくのではないでしょうか。


2023年春、大企業のベースアップに満額回答で応じる企業が相次いでいます。ですが、大企業に属するのはほんの一握り。


地域のビジネス活性化のため。中小企業のため。そして何よりも、あなたの日々の暮らしの潤いとして循環されるため。


今日、どこで何を買うのか。食べるのか。そんなことが問われる気がします。


あなたの地域のお勧め買い物スポットはどこですか。そこには、どんな働き人がいるのでしょうか。ぜひ教えてくださいね。


コーヒーのまちとしても有名なポートランド。その町で、世界中のコーヒーのプロが集結する見本市、Coffee EXPOコンベンションが催されます。(その様子は、特別記事として掲載予定)そのEXPO前段階として、次回は、ポートランドの小規模コーヒーロースターに密着! 世界規模のブランドとは一味違ったコンセプト。ちょっと変わった自転車行商から、有名スーパーに陳列されるまでのアプローチ法。物価高に対する臨機応変さとは? 日本の中小ビジネス関連の方のみならず、コーヒー好き必読の内容。4月中旬掲載です!


記:各回にご登場いただいた方や記載団体に関するお問い合わせは、直接山本迄ご連絡頂ければ幸いです。本記事掲載にあたってのゲストとの合意上、直接のご連絡はお控えください。









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