この夏の異常気象をポートランドで考える。エコビル、環境、建設業界の女性活躍

ニューズウィーク日本版掲載 2021年10月15日

Woman sleeping on the floor with the fridge open
この夏、ポートランド地域を含むアメリカとカナダの北西部を襲った約10日間の熱波。クーラーが無い家庭も多いこの地域。スーパーの氷は売り切れ。冷蔵庫を開けたまま、キッチンの床に寝たという家が多かったことに驚き!異常気象による電力使用増加という、皮肉なループ現象に色々なことを考えさせられます。 Photo | i-Stock

|より良い建物が、より良い未来の生活へ直結している


6月末、ポートランド一帯を襲った熱波の約10日間。過去史上最高気温、47℃を記録しました。


玄関を開けて外に出ようとすると、そこはまるでサウナ室。息をするのも戸惑うほどの熱量は、かつて経験したことのないものとなったのです。


その異常な猛暑の期間、高熱症により死亡した数は98名に上る。そう正式にニュースで発表された時には、その現実の恐ろしさに身震いをする市民も多くいたと言います。


それから4か月経過。そんな猛暑は、すっかり忘れ去られている感もあるポートランド。とはいえ、世界の気候危機は無くなったわけではなく、その緊急性は一段と高まっているのが現実です。


そんな矢先、日本生まれの真鍋さんがノーベル賞を受賞。うれしい一報となって世界を廻りました。『二酸化炭素の増加が温暖化を進める』という、今の時代では常識となったことを50年前に明らかにした方です。こうした長年の努力を基に、地球の温暖化や気候変動の研究が進んでいきました。


今の地球の温暖化による弊害はいくつもあります。海面の上昇(河 川 氾 濫)、農作物への影響(水 資 源 不 足・食 料 不 足)、生態系への影響(不漁・生命体絶滅)、熱帯性感染症の増加等。そこから、私たちの日々の暮らしに直接影響が及ぼされていくのを年々、シビアに感じています。


それに加えて、温暖化と建設は密接に結びついている。このトピックは、建築業界の方だけではなく、今では一般の人にも幅広く浸透しはじめているようです。


このような環境問題への世界的な意識の高まり。それと呼応(こおう)するように、現在の建築物に必要とされるのが、LEED* (リード)。省エネと環境に配慮した建物・敷地利用を先導している、グリーンビルディング(エコビル)の評価・認証システムです。


LEEDによる主なメリットは、『環境への配慮』と『二酸化炭素の削減』。オフィスビルから一般住宅といった、建築用の環境性能評価システムです。健康的で高効率、かつコスト削減が可能なグリーンビルディングの仕組みを提供しています。


このポートランドの町を散策すると、至るところで目にするグリーンビルディング建築物。それを示すかのように、ここ10年、特に注目を集めている業種があります。それがLEED認証建築ビルのプロ、コンサル・アドバイザーです。


その一人が、オレゴン起業家協会(OAME)で知り合ったサマーさん。日本に比べて、女性の働く環境は数段進んでいるはずのアメリカ。その中でも、保守的な部分を残すオレゴン州*。特に建築業界では、女性としての活躍はまだまだ難しいものがあります。そのような環境の中で、サステナブル建築コンサルティングの会社を起業した、笑顔の大きな女性です。

〚* ビジネスの女性進出の難しさは、過去の記事をご覧ください。〛


この夏の異常気象が過ぎ去り、ほっと一息ついた初秋に彩られたポートランドからお届けする、多様な環境のストーリーです。

Summer Fowler
Photo |Summer Fowler

|なぜ今、建設業界に「女性活躍」が必要なのか?


生まれも育ちもポートランド 、生粋の『ポートランダー』のサマーさん。オレゴン大学で一般建築を学んだ後は、ポートランドから車で約4時間弱のシアトルの建築会社に初就職をします。その後、地元の建築会社にUターン転職。そして、2009年に意を決して起業に至ったと話し始めます。


「きっかけとなったのは、2004年。有名な環境建築のコンベンションにシアトルで参加したことでした。そこで、『気候変動や海面上昇によって水没する都市』を示すプレゼンテーションを見てショックを受けたのです。あの時点において、持続可能という分野の建築にフォーカスを置いている企業は、決して多くありませんでした。ですからそれを機に、これからの地球の環境に焦点を当てた仕事をしたい。そう強く思ったわけです。」と凛とした口調で振り返るサマーさん。


そこから約10年間、持続可能性、公平性、そして建築環境における健康とウェルネスの関連性。そんな分野に焦点を当てて、新たなグリーンビルについての学習を広げていったと言います。それはちょうど、ポートランドがグリーンビルディングのメッカとして注目を集め始めた頃と重なります。


「グリーンビルというのは、まだまだ新しい分野。ですから、実に多くの事柄を学ぶ必要がありました。


具体的には、LEED ビルの新規建設、周辺地域の開発、脱炭素化、主要なグリーンビルディング認証。さらに、室内環境分野の持続可能な設計、健康・ウェルネスなど。それらを全て、プロの専門家として全てカバーしていったのです。


そして、学びは今も続いています。というのも、この分野の技術は、現在進行形で日々変化、向上をしているからです。


このポートランドの町の変化。それに伴う、数年前の都市の作り方が今はあまり通用しないのと同じ。その様な変化は、グリーンビルの世界では日常茶飯事です。ですから、日々アップデイトをしていくことが、プロとして問われる。とてもシビアな業界です。」


全てを前向きにとらえ、邁進するサマーさん。彼女のような女性の進出が目覚ましい分野でもあります。とは言え、建設業界は今だに男の世界。女性が働きやすい環境とは決して言えません。無言の偏見バイアスで測られると苛立ちを覚える。その様な経験から、『女性がもっと活躍できる建設業界とは』という部分を深く掘り下げて、企業を前進させてきました。


「グリーンビルディングに携わる女性は、建設・エンジニアリング業界全体に比べて多いのは事実です。にもかかわらず、プロジェクトの成果が評価される際には、女性は見落とされがちです。その理由は、プロジェクトを決定するのは建築家であり、そのほとんどが男性だから。女性はアイディアの開発者として見られることはあっても、その創造者として見られることはあまりない。これは、大変残念な点でもあります。


そんな環境の中で、女性がリーダーシップを発揮する上で非常に重要なこと。それは、別の視点からの意見に耳を貸すこと。それが良いものであれば、頑なにならずに取り入れること。このことを忘れてはいけないと常に意識をすることが大切です。」


プロフェッショナルな人材を評価する場合、性のバイアスを取り払うこと。そして、そのプロジェクトに適した存在なのかどうかを真っ向から向き合うこと。このように、その人の能力と適応性に準じて、選出をする必要性がより高く求められる現代の多様性。


「社会環境に優しいかどうかの判断は、単にソフト面だけの問題ではありません。グリーンビルというものは環境のためだけではなく、優れた人、そしてその他の資産管理のためにも必要とされているものなのです。」


では、グリーンビルディングと将来の利点とはどんなものなのでしょうか。


LEED certified building entrance
LEED認証を受けた建物の入り口には、Platinam、 Gold、Silver、Certified という4つのレベルが記され表示される。Photo | i-Stock

Federal Office Building
ポートランドのダウンダウンに位置する連邦政府局ビル。政府ビルとしては大変珍しく、LEEDプラチナ認証を受理。基本、一般の人は立ち入り禁止となっているが、著者の運営する PDX COORDINATOR, LLCを介してのみ、日本からの視察は特別に可能となっている。 Photo | i-Stock

|建物と健康のあり方を追求する時代へ


人は生涯の約90%を建物内で過ごすと言われています。それだけに、建物空間は健康に大きな影響を与えるということが言えるのでしょう。


実は、ここ近年までクーラーを家に設置する必要が無かった、アメリカ(とカナダ)北西部地域の気候と一般住宅。しかし今年の猛暑を機に、ローンを組んでエアコンを導入する*一般家庭が一挙に増えました。同時に、導入したくてもコスト的に断念をした。そんな話もよく耳にします。


〚*アメリカの住宅は、セントラル空調。日本の個別部屋空調との違いがあります。ですので、導入する際には家全体の工事が必要となり、数百万円ほど掛かるのが現実です。〛


コロナ禍とブラック・ライブズ・マターからの波を未だに引きずって、開店休業の店舗もまだ数多く残るポートランドのダウンタウン地区。しかし、コロナで停滞していた新しい建築は徐々に再稼働され始めているのは、明るいニュースです。


そして、現在建築されている建物のほとんどがグリーンビルだと、サマーさんは語ります。


「すでにご存じのように、建築物は気候変動の大きな原因となっています。そのため、地域社会や環境に優れた建築物を作ることがとても大切なのです。


エネルギー使用量を削減することで、排出量は削減されます。また、持続可能な土地、水効率、エネルギーと大気、材料、室内環境の質など、全体的なアプローチをとることも重要になってきます。


建物と人間のパフォーマンスを向上させる太陽の光や熱、風といった自然界のエネルギーを用いて快適な家づくりをするという設計手法のパッシブ・デザインシステム。昼光対策、自然換気、外壁の性能向上などに力を入れること。また、再生可能エネルギーを利用した空調設備の導入も必要です。


廃棄されたエネルギーや水を回収し、新たな目的のために再利用できるようなシステムを用いて、可能な限り自然により近い方式を取り入れます。


このようにして、人と環境にポジティブな影響を与える建築環境を実現していくこと。これが現代の、そしてこれからの地球と社会環境に必要なことだと信じて働いている私です。」


ならば環境面から考えた時、より良い未来のために何をすべきなのか。こう問いかけた時、「最新のエコ建築認証システムのリビング・ビルディングは、知っている?」と逆に聞かれました。


このリビング・ビルディング。自然と調和したクリーンで効率的な運用を行う建物の事を指します。要するに、自然のプロセスを模倣して建てられた建物のことだと説明してくれました。


「このような、クリーンで効率的なオペレーションシステムを行う建物をもっと増やしていく。このことが、これからの社会には必須なんです。


すべての建物やコミュニティにとって、環境への影響をできる限り減らすことは今の社会には必要不可欠な条件となっています。そしてこれは、建物の寿命までのコスト削減にもつながっていきます。


また、昼間の光を増やす工夫をして、電灯・電力を減らすこと。このことでエネルギーを節約したり、ホルモンや睡眠を調整する概日リズムを整えることも可能です。


ほんの少しの工夫から、自分の健康上のメリットを得るだけではなく、地球の環境を守る事に繋がるということを意識して欲しいのです。」そう微笑むサマーさん。


とは言え、一般的にこの様な試みが出来るのは、大企業や新築大規模ビルだけという印象はぬぐえません。


中小企業が主流ビジネスのポートランド、そして日本のまちの中小企業経営者にとって、有益な持続可能性のコンセプトとは何でしょうか。


「人材を惹きつけ維持をする。そして、健康で安全な職場を確保する。このようなことは、小さな規模からできると思います。」


例えば、米国からはじまったWELL認証。ビルやオフィスなどの空間を、『人間の健康とウエルネス』の視点で評価・認証する性能評価システムです。


WELL認証を受けるために要となるリストは、10のコンセプト(空気、水、食物、光、運動、温熱快適性、音、材料、こころ、コミュニティ)で構成されています。


「予算が厳しい中小企業であれば、移動しやすいように動線を考えたり。光を取り入れやすいように窓際においてある物を移動させたり。植物を増やすことで、空気の質を改善をしたり。そんな、小さな試みを取り入れることで、よりよい職場環境を造り出すことができるのではないでしょうか。お金を掛けられないのであれば、社員自らがアイディアを出し合う。そうすれば、より身近に良い環境を生み出すという喜びにも繋がりますから。」


以前は、いかにして環境を保護し、エネルギー効率を高めるかに重点が置かれていた建築環境。でも現在は、人間に焦点を当てたものに移行してきています。加えて室内環境の質を高めることで、その場を使う人々が、どのような恩恵を受けることができるのか。そんな点が、より注目されているのです。


事実、世界の温暖化が進んでいること、その影響で異常気象が増えているということ。その対策としての脱炭素が必要で、再生可能エネルギーへの移行が欠かせないということ。そんな部分は、おぼろげに理解はしている私たち。


と言いつつも、今のコロナ禍で、まだまだマイナス要因の多い生活を強いられている人が多いのも事実です。地球環境より、目の前の生活に心が奪われているのは仕方がないことかもしれません。


と同時に、このコロナによって地球上がいかに相互に繋がっているのか。そして、徐々に異常気象を体感し始めたのも、この夏でした。


自分のライフスタイルに合う、そんな心地よい生活のため。そして、将来の永続的な生活のスタイルのため。ちょっと、立ち止まって思いを巡らせる時なのかもしれませんね。


これからの季節、あなたはどのように健やかに暮らしていきたいですか。


次回も、もう少し別の視点からみた環境問題についての特集です。空間環境と新しいビジネスへの転換のストーリー。11月12日掲載です!


Summer Fowler
Photo |Summer Fowler

「本、コト、ときおりコンフォートフード」


サマー|she/her|エコリアル社 代表


アダム・グラントの『Think Again』【英文のみ】


『自分の中の固定観念を捨て、考え直すこと』。この2年間、刻々と周囲の環境が変わる日々を私たちは経験しています。ですので、いつまでも凝り固まった考え方でいたら、問題は解決していかないということも多く経験しているのではないでしょうか。


間違っていても良い。先ずは、新しく適応し続けること。この本に書いてあることは、持続可能性、多様性・包摂性の鍵でもある『聞く』ことに再度目を向けるように。そう示してくれる、心の友なる一冊です。


記:各回にご登場いただいた方や、記載団体に関するお問い合わせは、直接山本迄ご連絡頂ければ幸いです。本記事掲載にあたってのゲストとの合意上、直接のご連絡はお控えください。