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エシカル • チョコレート- ポートランド流 『サバイバルへの階段』

WOODBLOCK Chocolate Manufactory & Cafe
個人商店の多いポートランドの一角にある、ウッドブロック チョコレートの工房兼カフェ。カカオの良い香りが案内役となって、大通りから一筋入った立地へと自然といざなってくれる。 Photo | WOODBLOCK Chocolate

|『豆から板チョコまで』環境を考え、美味しく食べる


『甘すぎる、カカオの香りがしない』日本にも多く輸入されている、スーパー扱いのアメリカチョコレート。


でもここ数年のアメリカ、カカオの健康効果とエシカル*の視点から作り上げられた、本格派チョコが注目を集めています。


それが、ビーントゥバー。『ビーン(豆)からバー(板チョコ)』までを一括の行程として考えて製造されるチョコレートです。


大企業でもショコラティエでもない、小規模生産を行うチョコレート工房を中心に作られてる稀有な製品。それが今、時代の流れと共に、第3の選択肢のチョコレートとしてその存在を発揮しています。


〚*エシカル消費:消費行動を変えることで、地球環境や社会問題の解決の一端を担うという考え方。『倫理的消費』とも呼ばれます。生活に意識を向けている人が多いポートランドでは、米国内でもエシカル消費者が多いことでも有名です。 〛


元は2000年代初頭。ポートランドやシアトルが発祥とされる、サードウエーブコーヒーと同じコンセプト。カカオ豆や焙煎という同じ行程から、それに誘発される形で新たなチョコレート制作が始まります。ちょうど、環境問題を真剣に考える時代と融合して、一気に全米へと広がっていきました。そして今では、日本を含めた世界に専門店が出来るほどの人気ぶりです。


そんな、元祖ともいえるポートランドのブランド。それが、家族経営の小さな工房で作られているウッドブロック チョコレートです。


こだわりをもって、カカオ豆産地や生産者との関係性に重点を置いてる買い付け方法。産地別に、香りや味わいが変化をする豆の特性を見極めていきます。そこから、その豆にあった焙煎方法、粉砕の細かさまでを工房独自の手法で作り上げていくという。本来の正統なビーントゥバー製法での作り方を守り続けるブランドです。


オーナーのチャーリーと妻のジェシカ。実は、最近の日本における生活雑誌の基となったマーサ・スチュワートと共に働いていた方! マーサと言えば、アメリカで有名な、自然志向生活提案クリエイターの第一人者です。


そんなバックグラウンドを持つ二人が、作り出した工房兼カフェ。真っ白い緩やかな空気が流れる、癒しの空間となっています。


疲れを覚えた時には、長年の友でもあるジェシカの美しくシンプルに整える、すてきなセンスを求めて。もちろん、チャーリーお気に入りの古くて新しいロックの話も楽しみのひとつ。そんな『プレイス』に引き寄せられて、エシカルな本格派チョコレートドリンクを飲むのが、わたしの定番のやすらぎコース。


現在のアメリカ、特に西海岸の食文化は、持続可能な環境と未来のために少しずつ変化をしています。食と環境に関する知識を得ながら、より良い商品を選び味わう時代への移行です。


今回はそんな、エシカルな製品作り。そして、ポートランドと共に変化を遂げる* ビジネス成功へのヒント。加えて、コロナ渦中の中小企業サバイバル方法を深堀していきます。


Cacao fruit from a farm in Peru with a direct contract
ペルーにある、直接契約をしている農場のカカオの実 Photo | WOODBLOCK Chocolate

|NYから中規模都市への移住~クリエイティブ志向と計画


工業デザインの修士号を持ち、ハードロック好き。おやじギャグをとばしまくる、大きくてとても暖かい人柄のチャーリー。そんな彼が、ニューヨークで自然体の暮らしを愛するジェシカと出会い結婚。新たな生活を始めます。ダブル・インカムは当たり前のアメリカ。それでも、物価の高いNYでの生活は厳しいことばかりでした。デザインの仕事だけでは暮らし向きはいっこうに良くならず、季節ごとに友人のワイナリーでバイトをして生計を立てながら、何とか持ち堪えていた日々。その忙しさから互いのすれ違いが数年続き、心底疲れ切れきっていたと当時を振り返ります。


そんな頃、古くからの友人の結婚式でポートランドを訪れた二人。多くの都市を訪れてはいましたが、通常のアメリカの町とはまるっきり違う様子に驚くのです。


フレンドリー、そしてクリエイティブな人々。中小ブランドをサポートする町のシステムと文化。そしてなによりも、新鮮な食品が豊富なグルメの町に嬉しさ爆発だったといいます。なにせ彼らは、『フーディー*』な夫婦。食べることや食品そのものに対しての興味が、ロックと同じぐらい大好物だったからです。


〚* foodieとは、食べ物や食品に関して関心が高い人のことを指します。贅沢な食事とは限らずに、食べることや食材・原料も含めて興味がある人。それに比べてグルメは、食事全般、特に贅沢な食べ物や飲み物が好き。又、それを語ることも好き人というイメージです。〛


「この町で、サステナブル(持続可能)な暮らしをしながら、自分の家族を育みたい!すれ違いの沼から這い出したい。」そう思ったチャーリーさん。大都市から中規模都市へ、移住計画作戦の開始です。


まずは、二人の過去の仕事、経験そして興味を混ぜ合わせて、ポートランドで新しいビジネスを起こすという計画を練り始めます。キーワードは、クリエイティブなモノ作り、食品、ワイン、デザイン、そして持続可能性。そこに、ジェシカの自然志向の生活クリエイターというエッセンスが注がれました。


「何千ものアイデアを試しては崩していったよ。まさに、毎日がクリエイティブな実験室。そのうちに、分かったことがあった。それは当時(2000年初期)、クラフトビールやコーヒーは盛り上がっているのに、環境に配慮をしているビーントゥバー型のブランドがポートランドには一切ないっていうこと。そこから、ワイナリーの経験を思い出しながら、食品の専門学校に入り直して学び始めたんだ。」


100-year-old roasting machines lined up as you can see from the cafe counter
カフェのカウンターから見えるように、整列している100年モノの焙煎機。現在すでに5機所有。「これ以上買っちゃダメ!」とジェシカからお達しが出ている...らしい。Photo | WOODBLOCK Chocolate

中小企業だからこそ追及できる、持続可能製品への『こだわり』


起業をする際に、二人が意識をしたことがあります。それは、食品としてのチョコレートを次のレベルに引き上げること。


通常の大量生産タイプとは違う、持続可能なエシカルなもの作りを重視した商品を作り出して、それを皆に知ってもらうことでした。


「持続可能とか、エシカルな製品作り。これって、とてつもなく大きなテーマだよね。地方都市の中小企業が、すぐに解決できる問題じゃないことは分かっている。それでも、あえて自分達なりにできる取り組みという『こだわり』をどうしても持ちたかったんだ。」


今の世界のカカオ生産による弊害は、たくさんあります。例えば、森林伐採からカカオ農場への変貌、外国企業による格安の買い取り価格、現地農民の貧困、児童労働依存。まさに、現代の社会問題を映し出す鏡とも言われているゆえんです。


「森林保護、フェアートレード、農園支援などをしながらチョコレートを作る。地元ポートランドでは、地球環境のためになる消費について話す会を開くことを絶対行う。


それと、地域の高校生をインターンとして雇うこと。若い彼らに持続可能な商品作りを実習して教えるのは、もちろん時間を取られる。でもそれ以上に、若者と一緒に働いていると、自分自身の凝り固まった先入観が崩されていくことが多いんだ。これで良いって思い込んでいた事柄が多い、自分の今の年齢。だから、一歩先の新しい視点を追加することは、今の時代必須だよ。すなわち、クリエイティビティの源の一環となってくれている貴重な存在さ。これはNYで経験済みだったたから、どうしても外せない事柄の一つだったなぁ。」


そしてこれらは、ビジネスを開始してからずっと継続して行ってきている。それ以上に、実りを出しているのは尊敬に値する行為です。


次の世代を生きていく若者に、この地球環境に必要なコトとモノ作りを教える。すると、彼らはその友人や親にその考えを共有していく。こういう草の根のキャンペーン的なことを地道にしていくことに、自分の時間を割いていくべきだ。そう熱を込めて語るチャーリーさんです。


そんなエシカルブランドのB2B、そしてコロナ禍のサバイバル方法へのヒントとは~


Careful selection of cacao beans by skilled craftsmen
熟練の職人によって、丁寧に行われるカカオ豆の選別。 現地の作業員に、見合った賃金を与えることも大切な務め。Photo | WOODBLOCK Chocolate

|B2B、ポートランド・メーカーとの協働からの成功


運のよい事に、オープンして間もなく『グルメの町、オーガニック食材の町ポートランド』というムーブメントが全米に広がっていきます。特にクリエイティブ層を中心とする人々の間で、エシカル製品としての品質の高さと美味しさから、売り上げは右肩上がり。


「クリエイティブ層の顧客からの信頼を得られたのは、一つの目標だったから嬉しかった。それとは別に、実はもう一つ具体的な目標があったんだ。それは、地元ポートランドの食品関連の中小メーカーとコラボをして新製品をつくり仕上げること。


環境も重視した、自分達のビジネス理念と商品。それをもっと多くの人に分かち合いたい。その目的で、多くの時間をB2B* の開拓に費やしていった。 


全米レストラン賞に輝いた地元のシェフ、グルメレストラン。有名なハンドクラフトのアイスクリーム店、ケーキ屋、焼き菓子専門店など。加工業者も含めて、自社ブランドチョコを使ってコラボ商品を協働で作り出す。より良い製品を作りながら、同時にその店の新製品やメニューを考え出すことに全力を注いで、ウイン・ウインになる提案を出していったんだよ。


中小企業あるあるの「マーケティング費用が無い」っていう嘆き。でもお金が無ければ、それに代わるクリエイティブで斬新なアイデアを出し合って協力していく。ポートランドの中小メーカーブランドは、こういう風にコラボを発展させていくという特徴があるよね。そしてそれが、地域の中小ビジネスの魅力となっているんだ。」

〚* B2B とは、Business to Businessの略で、会社が会社を相手にしてやる『企業間取引』を指します。〛


チャーリーさんのストーリーを聴いていると、彼が大好きだというレッドツェッペリンのギタリストの言葉をふと思い出しました。「自惚れることはない。それでもなお、多くのミュージシャンが『ベストなバンドだ』って認めてくれることは、素直なよろこびにつながる。」


本当の意味において、『自他ともに認める』作品を造り出し続ける。『転がり続ける石』のように、社会と共に回っている工夫を感じました。


| 現在のコロナ禍でのチャレンジと次のステップへのヒント


コロナが発生して以来、日本の中小企業やビジネスが苦境に立たされています。これは、アメリカでも同じです。


「想像通り、B2Bの売上は大幅に減ってしまった。収益にいたっては約70%の減少、利益本体は約10%の減少だった。この数字によって、自分達のビジネスがいかに余計な労力や金銭を費やしていたのか。そこが明確になったのは、逆に良かったと思っているんだ。今まで投資として考えていた事柄が、無駄というモノに変化を遂げた。そう明確に、確認できたんだから。


正直、これからの事を考えると不安は大きいよ。でも、ビジネスをより強い形に発展させるために、今やるべきことをひとつでも多く試していく時期だと頭を切り替えている。来る新しい時代のためにもね。」


自問自答をするように答えるチャーリーさん。コロナ禍で、中小ビジネスの生き残りと成長をかけて行っていることとは...。


① 持続可能商品を制作するという、ビジネスビジョンと一貫性を保ち続ける。そのためにも、コロナ禍中・後の社会を分析リサーチして、具体的に何をすべきなのかの計画を立てる。


② これからの時代に見合った、新ビジネスモデルケースを自己学習する。その中から、自分の経営スタイルにあったツールを探し出す。


③ これだと思った事柄には、勇気を持って小さな『トライ&エラー』を繰り返していく。


④再雇用することを前提にして、従業員を一時的にあえて解雇する選択肢もありとする。失業保険受理したいという、従業員の気持ちも尊重する。


加えてこの時期、自分自身の心の切り替えを上手にすることも大切だと語ります。


Charley style 3 tips for switching
©2021PDXCOORDINATOR,LLC

「今はとっても辛いこの時期。それでもやっぱり、自分達が今まで行っていた持続可能な働き方、エシカルを広める働きは継続しなくてはいけない。そのために、『ノー』と言うべき時には、小さな声でも言い続けることは必要なんだ。勇気がいることだけどね。」


新譜を発表し続けるミュージシャンのように、作品に対してのトライ&エラーを繰り返す。新たなモノを作り出していくチャーリーさんのロック魂とビジネスとは、きっと無関係ではないはずです。


今、日本でも注目のことばとなっている、エシカル製品とエシカル消費。


どの分野においても、地球環境の本質は、消費する目的への配慮そして個人と社会の尊重にあるのではないでしょうか。


暮らしの中で、ほんの少しだけでも進むために。あなたは今日、なにがしたいですか。


次回のゲストは、元Nikeでマイケル・ジョーダンモデルのスニーカーをデザイン。現在は、スニーカー・デザインスクールを校長兼デザイナーとして活躍する、PENSOLEのCEOです。デザインという教育を通して、若者を牽引していく力。スニーカー・デザインとスポーツビジネスの奥義をお聞きします!

6月14日掲載です!


A man standing on a mountain trail watching the sun
Photo | WOODBLOCK Chocolate

「本、コト、ときおりコンフォートフード」


チャーリー|he/him|ウッドブロック チョコレート 代表


アーバン・アウトドアの町、自然からの贈り物


町中にも多くのトレイルがあることで有名な、ポートランド。その日のコンディションによって、違うトレイルを試してみるんだ。ウオーキング最中には、『食することが可能な物』を調べ探しながら歩くことも楽しみの一つ。ハックルベリー、真っ赤な野イチゴ、マイクログリーン。鳥の声を聴いたり恵みの豊かさを感じると、環境を守っていくことの大切さを再確認できる。それ以上に、創作の源にも繋がるから貴重だよ。


記:各回にご登場いただいた方や、記載団体に関するお問い合わせは、直接山本迄ご連絡頂ければ幸いです。本記事掲載にあたってのゲストとの合意上、直接のご連絡はお控えください。






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