ヘンテコ・カワイイだけではない! 『しぶとく成長するポートランド』 コロナ禍の活性化戦略

ニューズウィーク日本版掲載 2022年8月12日

A woman is drinking beer in a restaurant with stained glass like a church
2020年以来、ポートランドの町にはネガティブなことが多くありました。今、それを乗り越えている真っ最中。といっても、住民の根っこの部分は同じです。面白く、楽しい、そして温かい心を持った少年少女のまま大人になった。そんな人が多く住んでいる気質は、今も変わりはありません。 Photo | Copyright © 2022 Travel Portland

夏休み本番、という人も多いお盆の時期。「この夏こそ思い出を作りたい!」と考える人も多いはず。それを表すように、コロナ禍3年目の今、世界中では『海外旅行』というキーワードが各国メディアを賑わしています。


とはいえ、世界中で新型コロナが終息していない状況に変わりはありません。特に日本では、海外渡航に対して二の足を踏む人が多いのではないでしょうか。


そんな背景には、日本のインバウンド事情も見え隠れします。国内のコロナウイルスの感染者数が、過去最多となる中。海外から日本へ旅行をする人は、添乗員付きの団体旅行のみという制限がついています。


視点を変えて、日本以外の主要国に目を向けてみても、このような規制はありません。すでにアメリカ、中南米、ヨーロッパ等の多くの国は、ウィズコロナという特別観光方針を打ち出して、水際対策を緩和。インバウンド集客で、過去3年間の経済損失を取り戻そうとすでに動き始めています。


その主要方針の一つが、新型コロナ検査と要請証明書に表れています。アメリカに入国する際には、この6月から提出不要に。このような背景からか、筆者が開催業務を担当していた世界陸上選手権大会。そして、出張で訪れたシリコンバレーやLAでは、連日多くの観光客やビジターでごった返していました。


この3年間のうっそうとした気分。それを旅行をすることで、心を開放させている人々の姿。それを見た時、少なからずショックを受けました。というのも、ポートランドの落ち着き払った町の姿との対比があまりにも大きかったからです。そして、にぎわう観光スポット各地では、日本語は一切聞こえてきませんでした。


当然、日本と欧米の置かれた状況は違う。そう感じている人も多いことでしょう。新型コロナに対する日本人の実質的、心理的な感染への不安。それに加えて物価高騰、円安の影響。といいつつも、どうしても海外に行きたい!という強い思いから、決断した旅行。でも最近では、それをキャンセルする人も増えている。そんな揺らぎをよく耳にします。


A man playing the piano outdoors
Photo | Copyright © 2022 Travel Portland

とはいえ、日本にいる多くのポートランドファン、そしてポートランドに行きたいと長年願っている人。そのような方々から、特にこの半年「いつになったら行けるのか?」「もう、大丈夫なの?」。そんな質問が、筆者宛に頻繁に寄せられています。


その答えになればという思いから、今回はポートランド観光協会* への特別インタビューをお届けします。【* Travel Portland、以下 TPと略す。】


実は、以前にもTP関連の記事を書いたことがあります。その延長線という形で、『この夏のポートランド』はどうなっているのかの最新情報。


ポートランドの人気の秘密、日本との友好の背景などは、『ポートランド・スタイル』自分らしく、IKIGAIを手にいれる旅 をご覧ください。


この取材から見えてきた、町と地域の活性化や取り組み。地元住人・地元ビジネスとビジター* 双方のよき関係性。観光関連業種だけではなく、他の産業や経済分野への広がりなど。ポートランドの今の取り組みを現地レポートします。


【*観光客、視察、出張などをまとめた表現として、以下『ビジター』と表示。】


Silhouette of a woman standing in front of art
Photo | Copyright © 2022 Travel Portland

| 他人を感動させるために、他の誰かになる必要はない。ありのままの自分でいられる町


旅行需要を通して、ポートランドの経済効果を上げること。同時に、町と共に成長を続けるというミッションを持っているTP。


「ポートランドは、他人を感動させるために行動する必要もなければ、仮面をかぶって生きる必要はない。ありのままの自分の姿が良いとみなされ。そして自分自身も、そのままの自分であることが一番快適だと思える。そんな場所なのです。


かといって、皆さんが住んでいる場所をポートランド色に染める、というのもちょっと違いますよね。それぞれの土地の性質と付加価値を見極めて、そこからスタートすることがとっても大切だと感じます。」そう、話しはじめてくれました。


日本人がポートランド市にはまった理由。それは、小さな都市でありながら、多様な文化や人々の『個々のポケット』 を見つけることができるから。ビジターでありながら、地元の人にフレンドリーに歓迎され、市民が生活をしている町の一部になることができる町。英語が拙くても、自分の居場所がそこにあるように感じられる。そんな体感ができるからではないでしょうか。


というものの、2019年には、77万9千人のビジターを誇る人気の町だったポートランド。そのうち、28万4千人は海外からでした。しかし現時点で、町とビジター数の本格的な回復には至っていません。


現時点でのポートランド中心部の様子は?そして、コロナ禍で生み出されたマーケティングとは、いったいどのようなものなのでしょうか。


An adult and a child riding skateboards in front of an Andy Warhol art mural
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|ポートランドの今って?経済活性?コロナ禍を生き抜くために?


コロナ禍が深刻化をする少し前から、BLM、暴動、ヘイトクライムなどを大義名分とした破壊行為が、無残にも繰り返されてきたポートランドの中心部。


そんなダウンタウンの勤務形態も、オフィスワーカーにとっては在宅勤務が当たり前。サービス業系種は別として、一般には週に1日から3日の出勤体制という新しい文化がすでに築かれています。


このことから、オフィスビルの空洞化問題は他の都市と同じく。日中でも、人はあまり歩いていない状態が続いて、覇気に欠ける雰囲気です。同時に、サービス産業の労働者不足も引き続き深刻な問題となっています。


コロナ禍による、ビジネス形態の変化と労働者不足の要因は、『最新の米国社会現象から見る、ポートランド』の記事をご覧ください。


現状を脱却する目的で、市長とビジネスオーナー有識者、州知事とビジネス協会、州経済局と有識者など。いくつかの委員会も発足して、知恵を出し合いながら新しい取り組みが繰り広げられています。(筆者も現在、3つの有識者会議の委員を務めています。)


では、『経済効果を生み出すために、観光客を集める』 という基本目的を維持し果たすために、TPとしてどのように生き抜いてきたのでしょうか。


「世界中の多くの都市が困難な時期を経験していたのは、皆同じ。とはいえ、米国の中でも特にポートランドは、困難な時期を過ごしている町であることは明らかです。ですから、以前の町の形態を取り戻すためにも、今は『経済効果と町の治安』に重点を置いています。特に、ダウンタウン地区の活性化に全力を注いでいる際中です。」


そんな町の現状を踏まえて、今まで以上に地域のビジネス協会、市の組織などと垣根を越えた協働案の実施に力を注いでいるとのこと。


コロナ前には実施しえなかった、市民とビジネスを繋げる新しい方法の模索。ツールや案をクリエイティブに考え、試し、発信をしていくことが大切だと言います。


「このような新しい試みを通じて、ポートランドという町の信頼回復に取り組んでいる最中です。その努力のかいもあって、TPが実施している消費者マインド調査の最新データでは、数字が良い方向に進んでいる。そんな結果が出ています。」


【詳しくは、TPのデータをご覧ください。(英語のみ)】

A bar with a wall of liquor bottles
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| 日本を含む世界中からの集客を再び! 3つの戦略とマーケティングプランとは?


1・ 他分野との協働リサーチ


「地元ビジネス等との調査を通じて、ポートランドを訪れる最大要因をリサーチし直してみました。その結果、イベントと料理を訪問目的としているという結果が明確に再出されたのです。


この結果を基に、戦略的に『今のポートランドをどう広めるか』 を新たに考え始めました。


より良い町づくりと未来のために。住む人も訪れる人にも、どうポートランドを楽しんでもらうのか。考えを更から洗い直して、戦略をシフトさせていったのです。人々が深く求めている『楽しく・おいしい』ポートランド。そのために、戦略的に予算を組み、可視化されたイベントへ集中投資をし、大々的に発信をする。このようないくつかの試みが、町の負のイメージから、脱却の一歩へとつながりました。」


≪成功例≫


*ビール・フェスの開催+人気グルメTVチャンネルでの放映


*地元ストリート・カートフード+Netflixグルメ番組放映


*地元ブランドメーカー+クリエイティブカルチャー+SNS発信 など


2・ 地元ビジネスへの具体的なサポート


「このコロナ禍3年目の夏。中小ビジネスが自力で頑張っても立ち行かなくなるケースは、ますます多くなっています。ですから、行政や協会などが、地元のビジネスを具体的にサポートすることは不可欠だと感じるのです。


TPの場合、ホテル、レストラン、フードカー、ツアー会社、小売店などのパートナーを広くサポートする体制を新しく作り出し、日々実行をしています。


人が集まるところには、新しいアイディアも生まれやすいです。コロナ禍というものに慣れすぎないように、協働という名にふさわしく、互いに助け合い働く時期なんだと感じています。」


≪成功例≫


*GoogleサイトやSNS上へのリソース提供


*地元ビジネス用、無料TP登録システムへの変更


3. リピーター、ファンへの再アプローチ


「ビジネスや視察目的ではない、日本人一般ビジターの多くの方は、ポートランドに行きたい、けれども心がついていかない。そんな話をよく聞きます。」


旅行だけではなく、業種全般に関しても言えること。それは以前、一緒にビジネスをしたことがある人、企業、グループなどへ『具体的に再度アプローチ』をかけてみる時期だという事です。


手間暇惜しまずに、現状と新しいツールを紹介すること。加えて、個人的に久しぶりに話をしてみると、相手の『現在の悩みやニーズ』もわかるはずです。


知らないから不安に思うのは、皆同じこと。相手の○○をしたいという動機が少しでも分かれば、そのハードルを越える方法を探しやすくなるのではないでしょうか。


≪成功例≫


*ポートランドファンになった一人ひとりが、その土地での 『大使』 となって町の魅力を拡散


*SNSなどを使った、現地ビジネスオーナーによる配信レポート


*羽田・ポートランドの直行便(今秋に復活予定。住民と訪問者、そして経済にとって重要な役割。)

Sunset and Portland Oregon sign
Photo | Copyright © 2022 Travel Portland

「2020年以来、ポートランドの町に変化があったのは事実です。ネガティブなこともたくさんありました。でも、それを乗り越えて最近のポートランドは強くなったのだと感じます。それは青年期の試練を経て、大人に成長する姿にも似ています。


実際、閉店した飲食店は想像以上。でも、その代わりに新しい世代のシェフたちが勢いのあるお店を開業したり。フードカートがより一層充実をしていたり。さらには、面白いコンセプトのショップも次々にオープンしています。ポートランドらしく、フェミニズムやマイノリティーという主張がはっきりした骨太なビジネスも伸びてきているんですよ。」


ただカワイイだけではない、ヘンテコだけではない。このコロナ禍で、『しぶとく成長し続ける』 ポートランドを体感しに来てほしい。そう、締めくくってくれました。


さらに新しく伸びていくポートランド。でも、木の根っこの部分は変わっていません。


あなたがあなた自身の気持ちを尊重して。同時に、周りの人と出来る部分で小さな形から支え合っていく。


自分らしい生き方を見失わないためのヒントを探すため。もう一度原点に立ち戻って、可能性を見つけるチャンスかもしれません。


あなたにとっての原点は、どこにありますか。

Drink food cart using a classic car
Photo | Copyright © 2022 Travel Portland

来月(9月)は、先日までオレゴンで開催されていた『世界陸上選手権大会』、その裏舞台のストーリーをお届けします。選ばれた世界のトップのアスリートが、大会に集結。同時に、選抜になれなかった数えきれないアスリート。そんな彼ら彼女らは、実務役として大会に携わっていました。そんな一人の元アスリートが語る、夢をあきらめた後の苦悩。そこから、どのように新しい人生の方向性を見出したのか。次のステップに移行しようとしているあなたへの羅針盤です。


記:各回にご登場いただいた方や記載団体に関するお問い合わせは、直接山本迄ご連絡頂ければ幸いです。本記事掲載にあたってのゲストとの合意上、直接のご連絡はお控えください。