ポートランドは、「米国で一番住みたい町」...だった?

ニューズウィーク日本版掲載 2021年02月09日

The photo of Portland Oregon sign located atop the White Stag Building in downtown Portland, Oregon. This sign is one of the most instantly recognizable local landmarks.
川を中心として東と西側に広がるポートランド市。ランドマークのバーンサイド橋は、耐震工事計画中。住民のための「住民が選ぶデザイン」によって耐震工事計画中。  ©2021PDX COORDINATOR, LLC

でもやっぱり、失敗から学んでやり直そうとするこの町が好き!


2000年初頭から、日本国内からも大いなる注目を集めたオレゴン州ポートランド市。


南のカリフォルニア州ロスやシリコバレー、北のワシントン州シアトルという有名大都市の間に挟まれた、アメリカ西北部の白人が約80%を占める中規模都市。ステレオタイプのアメリカ人とは少し違う朴訥とした雰囲気は、地場産業の林業(木こり)の名残とか。


『2011年・最も住んでみたい町』『2012年・最も環境にやさしい都市』と数々の一位を獲得。多くのクリエイティブ職が移住したことも影響して、新しいポートランド文化の発展に拍車がかかりました。


でもこの5年位、いたるところで耳にするセリフ。

「今のポートランドって、住みにくいよね...」

2019年迄のプチバブルによる物価、不動産高騰。でも給与は頭打ち。加えてアメリカでは、唯一個人破産が認められない「長期の多額学費ローン」にがんじがらめ。そんな20代から40代の人たちの生活は、つらく苦しいものがあります。


そんな、今のポートランドに関しての "プロパーな情報"。最近の日本語メディアでは、あまり取り沙汰されてきませんでした。正直、正しいというか現実のありのままの情報を伝えるということは、なかなか難しい。でもしいて言えば、ポートランド発の環境情報は2017年位で止まっているのかもしれません。


【この頃のポートランドと発展と失敗については『町作りの王様ポートランドは、なぜすごいのか調べてみた』を。会話形式に、わかりやすく説明がされています。】



|女性!アジア人!持続可能な起業って?

さて、そのポートランドに25年間生活をしている私。当時としては珍しかった、ダブルマイノリティー(有色人種かつ女性)として起業をしました!なんて書くとカッコ良いのですが、赤面しすぎて固まりっぱなしの日々。知らなかったビジネス流儀が、ありすぎ!


男性中心 の旧式の厚い壁。アメリカ流の自己アピールの取り違え。敬語的な英語表現やその言い回し。アメリカ流根回し。強く出れば打たれ、謙虚に出れば会議で無視され。あっ!『女性が入ると会議に時間がかかった』から無視だったの?


そんな数々の失敗と女性起業家としてのサバイブ方法から、物事や周りの人を多角的な視点で見るという習慣が身についた私。それは外国人・アジア人への無言の差別に対してだけではなく、女性起業家への偏見(意識的・無意識的)に対するやり切れない思いからです。


実は、外国人がアメリカで起業すること自体は、それほど難しいことではありません。でも、外国人の女性が起業をして継続的に収益を上げていくことは、想像を絶する険しい道のりです。


『あとどれくらい 泣いたのなら 強くなれる~』と、外れた音程でそのフレーズだけ毎日リピート。その中で、少し逆のコンセプトをいくつも想像することによって、本質が見えてきたのです。


「好奇心を持ち続けて、広い分野を学び続ける。分けへだてなく、実直に。自分を成長させていくことに心を向ける。」特にこの実直というのは、長年経営をしているポートランドの人の共通点。それは、他の大規模都市と比べて大企業が少なく中小企業が大半を占めていること。すなわち、起業や持続可能な中小ビジネスには、切っても切り離せない大切なものだからです。


日々打たれながらも地道に努めていると、自然とLike-minded People* 自分と価値観が近い人と交わうことを意識するようになっていきました。それは人種、性別、宗教というバイアスを超えた信頼関係の築き。影で足を引っ張るのではなく、切磋琢磨する誠実な協働の関係作りです。〚*共通の価値観や人生観を持つ個人との繋がり。数を増やすだけの仲間作りや群れることとは違います。〛


日々で会う人と誠実なコミュニケーションをとり続け、それぞれの人との心情が重なる中で仕事を120%+で務めていくと、仕事の範囲も種類も広がっていきました。


そして、アッ!と思い出したのです。こっそりと地元メーカーの社長が教えてくれたセリフを。


「良い種をまいて、ずるをしないでちゃんと肥料をやって、毎日すべきことをしていれば Growing organically 有機的な成長に繋がるんだ。と。


その頃からです。行政トップとの協働プロジェクトが増え、それを元にした視察へ展開。そしてビジネス特集の日本TV番組撮影や雑誌企画へと繋がり、そこから学術リサーチへと広がっていきました。今では、オリジナルの持続可能型 循環式ビジネスモデルを構築するに至っています。


要するにこんな私が、アメリカで中小企業の運営継続ができた理由。それは「ポートランドだから!」


州や市が地元の中小企業を応援する土台があって、地に足のついたローカル志向が尊重されていること。同業他社との協働システムを作って、切磋琢磨していく概念があること。そしてなによりも、人と人との小さな輪を大切にしているという共生の志向がある町だからこそです。(感謝)


【記:この数々の太字のキーワード。具体的な内容は、これから各回を追うごとにていねいに説明をしていきます。】



At a diversity conference hosted by the Governor. With the Governor, Mayor (including suburban cities), METRO Bureau Top, Entrepreneurs Association Director, etc. © 2021 PDX COORDINATOR, LLC
州知事主催のダイバーシティー会議にて。州知事、市長(近郊市含む)、METRO局トップ、起業家協会長等と共に。  ©2021PDX COORDINATOR, LLC

|SDGsと多様性。日本とアメリカ、ポートランドの違い?

好奇心というレーザー光線の道具を持って、多種多様な分野の人との信頼関係を築き続けて行く日々。すると、表立っては見えないけれども、その分野で大小問わず実を結んでいる人たちの ある共通点 を見つけたのです。


それは、自分の地位や収入とは関係なく、自分の出来る範囲で社会の環境、貧困、教育、ウエルネス、多様性を地味に意識して生活をしているという点でした。


ざっくりとした表現になりますが、このカタゴリーが現在言われている所の...


アメリカの「サステナビリティ(持続可能)」&「ダイバーシティー(多様性)&インクルージョン(包摂性)」


日本の「SDGs("持続可能多様性包摂性のある社会"の実現のための開発目標(ゴール)


〚ここから先、少しだけ小難し表現になってしまい恐縮です。でもこの部分は、外せないので少しだけ説明をさせてください。次回以降は、もっと心やすく綴っていきますね。〛


この表現、それぞれアメリカと日本では、表現としてもニュアンス的にもちょっと違いがあるのです。


このアメリカのサステナビリティ&多様性。各50州それぞれの州がまるで一つの国のように、独自の法律や文化、人種の違いがいる。それがアメリカ"合衆国"。


そんな歴史的・文化的背景から、サステナビリティ(健全な環境、社会、生活を維持して持続していくこと)が非常に重要だと。そしてその流れの中で、多様性(多様なバックグラウンドを持つ人たちが、公正に社会や生活に関わっていくこと)もとても大切だと。こんな感じで、2つは分けられて表現がされています。 もちろん、国連が提唱してる17項目の目標に沿う場合には、SDGsという単語が使われています。


そして日本でいうSDGs。まず国連案から「日本のSDGsモデル」が作られ、そこから8つの取り組みの柱が掲げられたました。それを基に、多くの企業や行政の取り組みが今なされています。中には枠組みや言葉だけが、独り歩きをしているものも。また、日本年金機構と企業の関連からのSDGs促進というのも独特なシステムとなっています。


では多様性は? 完全な優先順位とはいかなくても、米国ではやはり人種(出身地域)、性別(女性)、年齢、障がい者、そしてLGBTQ。そして今の日本では必然的に、なんといっても女性活躍推進、キャリアと子育ての両立が優先しています。


それよりなにより、西海岸の中でも多様性への対応が断然遅れているのが、実はオレゴン州なんです。やっと、2015年頃にポートランドが一行政として本格的に取り組みを始めた所。


アメリカって、SDGsと多様性先進国じゃないの?って。ポートランドにおいての開始時点日本とほぼ同時期なんです!


|つまるところ、わたしのSDGsと多様性って?

ちょっとこの小難しい内容を読んだ後だけに、何だかやっぱり枠が大きそうだしって感じちゃいますよね。


そうでなくても、今は新しい複雑な環境と社会があって、目まぐるしく変転することがらに心がとらわれがち。


でも、本来SDGsや多様性って、ポートランドに人のように地味に「気負わずに、自分の暮らしの中で意識をする」ことが始めの一歩なんじゃないかって。17項目とか、掲げられた目標とかよりも先に、まずあなたの日々の小さな営みから、少しずつ幸せを感じることが大切なことではないでしょうか。


そして、このちょっと背伸びしたあなたの意識が、「数年後の自分への投資」になるのだという気がします。


新しい生活様式が求められている今だからこそ、目線の小さなヒントとして。


多くの失敗もしてきたポートランドの人って、どんなことを日々意識しているの? どんな事から、うれしいって感じるの?


その基盤にあるポートランドの町の”今”って?新しい取り組みやその方法って?


SDGsと多様性という表現に統一して、毎月、第2・第4週火曜日。多種多様な分野のちょっと趣のあるポートランドの人からこの町を深堀りする連載です。


固い職種の人には柔らかく語ってもらい、わけのわからないカタカナ横文字は少なく、そして新しい英語表現も説明付きで、あなたにお届けします。


加えて回の末尾には、各回登場したゲストが影響を受けたもの・コトを特別に教えてくれるコーナーも。その人の心をすこし垣間見ると、本編の内容もすこし違う目線で読めるかもしれません。


また、各ゲストの名前後ろにある「人称代名詞」。多様性が謳われる今、女性の身体として生まれても「he/him」と、ジェンダーフリー*として「they/them」と。わたしを呼ぶときにはこれを使ってという表示が、今広がりをみせています。自分の心を尊重し、相手も尊重するという流れです。 〚*従来の固定的な性別や役割分担にはとらわれず、という意味合い。〛


ゲスト予定:ブランドデザイナー|ポートランドメーカー・起業家|多様性ビジネス協会会長|州知事室 多様性部 部長| スペシャリティー コーヒー協会|SDGs大学教授|州経済局 新局長|スポーツデザイン学校 校長|WELL/LEEDエコ オフィス設計者|オーガニックレストラン店主|市持続可能オフィス局 | 州大学リサーチシェフ |エコエネルギー会社代表|耐震橋建築デザイナー|等多数



A photo of The Ace Hotel, a stylish business-class boutique hotel that features vintage furniture, original art and eco-friendly elements.
©2021PDX COORDINATOR, LLC  

次回のゲストは、デザイナー兼クリエイティブ・ディレクターのライアンさん。町の文化と音楽を象徴するホテルとして、新しいホテルを次々と発表。隈源吾氏とのコラボによるアジア発の「京都ACE」によって、更なる注目を集めています。ライアンと私は、その京都ACEのプランニングで長年協働してきました。そんな彼の進行中のプロジェクトとは。彼の日々のSDGs、そこから見えるポートランドの今を探ります。2月23日掲載

『本、コト、ときおりコンフォートフード』

その人の生活スタイルと影響を受けた大切なもの、思うことへのヒント。











山本彌生|she/her|企画プロジェクト会社経営者/

日米児童教育・養護施設ボランティア団体代表


プレイスブランディング 場所をつくる仕事(有斐閣) ポートランドのまち作りと日本のプレイスブランディングについての初の協働作。日米にいる Like-minded Peopleとのビジネスを超えた信頼関係によって、今のわたしがあると確信した記念の書籍です。活版印刷のカバーでポートランドを表現。デザインはカンヌデザイン賞金賞の方によるもの。


ボランティア 日米両国の養護施設で生活をする児童に、勉強と社会のしくみを教え、退寮後の生活支援をするボランティアを30年間行っています。先進国であるはずの日米で、貧困、虐待、出身差別等の想像をはるかに超えた環境と生い立ち。そんな彼らから、私は沢山のことを教わっています。