人もペットも健康寿命がカギ!『持続可能なポートランド • ドッグフード』

ニューズウィーク日本版掲載 2021年05月11日

Portland Pet Food Company Kitchen
ポートランドペットフードカンパニーのキッチン。新鮮な国産食材のみ、それも出来るだけ近郊の地産物を使用して作られる『ヒューマングレード』ペットフード。(現在は、マスクと手袋を使用) Photo | PPFC

|健康寿命、人生を共に生きるヒント


「サステナブル(持続可能)・ドッグフード」「ヒューマン・グレード*記載」。愛犬家でない限り、あまり聞きなれない言葉だと思います。


今アメリカのペット業界では、愛犬と環境の双方にやさしい市販のドッグフードや製品が、トレンドを越えて主流になる勢いです。


そのカギとなっているのが、『健康寿命』そして『持続可能』。


日本でもここ数年で、人生100年時代という言葉が定着しています。そしてこのアメリカでは、その一歩先をいく健康寿命に注目が集まっています。すなわち『健康に自立をしながら、社会と共に生きていくことが出来る期間』をいかに伸ばすか、ということです。

〚*アメリカで「ヒューマングレード」とされている製品表示規定は、「人間でも食べられるもの」プラス「犬にとって必要な栄養を満たすもの」という双方が必要です。〛


私たちの人生が長くなった分、自分がいかに健康であり続けられるのか。同時に、愛するペットの健康を維持して共に楽しく暮らしたい、という願いの現れだとも感じるのです。


この数年、変化を遂げているポートランドの町。でも、変わっていない部分も多くあります。その一つが、愛犬家の多さです。ペットと共に生きる環境を大切にすることから、自分の勤務先に犬と一緒に出社する*というカルチャーもすでに深く根付いています。

〚*現在のコロナ禍によって、オフィス勤務者の主流はテレワークとなっています。〛

ポートランドの変化については、以前の記事をご覧ください。


ポートランド流 愛犬との仕事のシーンは、こちらをご覧ください。


そんな愛犬家の間で、ポートランド・ブランドとして支持を集めているのが、ポートランド ペット フード カンパニー。人間が食することが可能なレベル、そんな高品質ドッグフードを開発製造しています。人気の秘密は、フードだけにはとどまらない環境への配慮と数々の持続可能プログラムです。


実は、ブランド創設者のケイトさんにとって人生半ばからの起業でした。そんな持続可能なドッグフードやプログラム、そして彼女を襲った病魔。人生の先輩としての生活のヒントとは、いったいどのようなものでしょうか。


健康寿命や持続可能製品。そしてこの社会と、ペットと、パートナーと共に生きるカギを探っていきます。


Four dogs with the bandanas from Portland Pet Food Company around their neck
Photo | PPFC

|ニッチ市場での、持続可能な商品づくり


元々、愛犬家であったケイトさん一家。2014年に、家族の一員であるスタンダード プードルの健康状態が悪化します。獣医には先は短いと通告された日から、家族総出となって生き延びるすべを調べ始めるのです。


その経過で、今の健康状態に合ったより良いフードを与えていくことの必要性を実感します。とはいえ、当時はあまりにも高額すぎるヒューマングレード製品や、少し安いけれども疑似表示モノという選択肢ばかりでした。


無いなら作ろう!と思い、学習しながら自宅でのフード作りが始まります。その甲斐あってか、一時は危うかったプードルも食欲を取り戻し、そこから2年半以上生きるという奇跡が生まれたのです。この家族総出の経験が基になって、食べ物の質の大切さを分かち合いたいという気持ちから同年に起業。ドッグフードのブランドを立ち上げました。


持続可能なヒューマングレード製品のみ。しかも、添加物や防腐剤は一切なし。米国産の食材のみを使用するという、特化された商品開発と生産をめざします。


このように、人生の半ばで手探りの状態で始めた新しいビジネス。商品として価値のあるモノを作り出していくことに、試行錯誤を始めます。


夫や大学生となった子供達にも手伝ってもらいながら、友人にはパート勤務をお願いします。こうして自分の周辺を巻き込んで、初期の安定化を図っていきました。


まずは、USDA (米農務省) 認証の調理済み保存可能フードの製造を開始します。あわせて、地元の醸造所から仕入れた、使用済み穀物で作られた特製ビスケットも生産開始。


この様に、地元メーカーに協力をしてもらいながら、持続可能商品を作り出していく方向を確立していきます。ペット業界の持続可能小物グッズへの人気も相まって、高品質かつ手が出しやすい価格フードという口コミから、徐々に売れ始めていきました。


そんな時期、ヒューマングレードの商品をより広めたいという思いから、ちょっと型破りな戦略を思い立ったといいます。それが、通常(人間)の食品見本市での出店参加!


「ブースに来る人に試食をしてもらって、感想を言ってもらう。それとほぼ同時に、実はこれはヒューマングレードのドッグフードなんだと告げるのです。もちろん、皆さん驚きます。でも、見本市に来ている方は食のプロの方ばかり。そんな方々がブースに戻って来てくれて、もう一度試したいと言ってくれました。その理由は実にシンプルで、「おいしかったから」。加えて、持続可能な製品作りという分野にも多くの方が興味をもってくれました。」


この様な中小企業ならではのアイディアと小さな努力の積み重ねによって、メディアのカバーストーリーを飾る機会も増えていきます。その頃から徐々に、ブランドの足場が固まって来たと感じ始めました。


しかしその矢先、突如として救急搬送されたケイトさん。そこから、別の意味での新たなチャレンジ生活が始まっていくのです。

Kate is standing in front of the oven with a tray of dog biscuits
Photo | PPFC

|病気からの学び、『小さな社会』の必要性


ビジネスが少しずつ軌道に乗り始めた矢先の2016年、脳卒中をおこして緊急入院をします。幸いにも、命は取り留めましたが、左半身の運動機能がほとんどマヒしてしまいます。そこから、一日の大半をリハビリに費やす課題多き生活が始まるのです。


「急遽、夫と友人が工面してビジネス継続に必要な働きを担ってくれました。しかも運営の引継ぎだけではなく、全面的な介護にも全身全霊を注いでくれた夫です。その励ましと愛なしには、辛いリハビリを踏ん張ってこられなかった、というのが正直なところです。」


家族、友人、会社の人々のサポートを得て、数年掛けて徐々に回復をしていくケイトさん。


「ご存じの通り、脳卒中による後遺症は完璧に無くなるものではありません。ですが、今こうして杖無しで歩けること、フルタイムで仕事に復帰できたこと。以前の私だったら、ここまで毎日感謝をもって生活するということはなかったと思います。」


そして、その苦しいリハビリを経過する中で、ある目標を掲げます。それは、いつかマラソン大会に参加をして完走するというもの。その日を目指して、少しずつトレーニングを重ねていきます。そしてついには、競歩レベルのスピードをもって目標を成し遂げるのです。


人生の半ばで、いくつも連なるハードルを越え続ける苦しみ。その当時を振り返りながら、静かにこう語ります。


「長い人生の途中で、何らかの予期せぬ出来事は必ず起こります。そして、それを越えていかなければならない、そんな辛い時期が誰にでもあります。その時どんなに苦しくても、現実逃避をしてはいけないと思っています。でも正直なところ、私自身も何度もくじけ折れていました。しかしその都度、将来をポジティブに想像しながら自分自身が幸せだと感じる新しい人生を歩んでいく!と言い聞かせる日々でした。


同時に、自分の信頼する人や自分と同じような経験を持つ人と話をしたり、共有することの大切さも経験しました。


いつか来る何かのためにも、自分が信じられる小さな社会を築いておくこと。これは長い人生において、大切な要素の一つだと確信しています。」


そんなケイトさん流の持続可能が働きがいにつながる、というコンセプトとは?そして、ちょっと疲れているあなたへのアドバイスも...


Kate and her two dogs are on the forest trail
家族同様の2匹の愛犬とともに、自宅近所にある森林公園を散歩することが日課。Photo | PPFC

|環境に良い商品開発ともの作りが、社員の働きがいに繋がる


この体験が、命の尊さ、共に生きるという観点に立った『持続可能なビジネス』により力を入れていく節目となりました。それはドッグフード本体だけでなく、付随していることやモノにも持続可能を突き詰めていくという総合的な製品作りです。


パッケージには、リサイクル材料の層で構造化された特性のレトルトポーチを開発。これによって、コーティング素材が原因でリサイクルができないという通常の問題を解決しました。


また、『ペット・サステナビリティ同盟*』との協働によって、ペット産業の持続可能商品を広げる働きをしていきます。

〚*ペット産業の協力機構。地域社会や環境にプラスの影響を与えること。そして、より高い環境や社会慣行に通じるように推進するのが目的。〛


さらに注目を集めているのが、送料負担の『パッケージのリサイクル返却システム』。使用済みのパッケージを指定封筒に入れて、返却してもらうプログラムです。もちろん、中小企業としては大きな負担です。でも、このような持続可能に必要な取り組みを率先して行う大切さを感じています。


それだけにはとどまらず、事業成長や管理、加えて従業員に対しても持続可能を意識していると話を続けます。


自分を超えたスキルを持つ人材を採用することは、とても大切な要素です。オーナーは、概して自分より能力が高い者を雇うことに尻込みをする傾向があります。でも、色々な能力やスキルを持っている人がパズルのピースの様に組み合って、初めて新しいコンセプトも生まれる。そしてそれが、持続可能なより良い製品に繋がると信じています。


また、従業員の『地球環境に直接影響を与える製品を製造している』という気持ち。これによって、やりがいのある職場意識が自然に生まれてくるのもうれしい作用です。」


|働くあなたへのヒント


現代社会では、生活を維持するため、又、生きがいのために子育てをしながら働くことが当たり前になっています。母であれ父であれ、仕事と育児のバランスを取ることのはとても難しい。そんな自らの経験を振り返ります。


「常にバランスよくコトが進むなんていうことは、まずありません。ですから、柔軟な頭と心をもって生活をしていくこと。これは、一つのサバイバル方法です。」


実の所、日本と同様にアメリカでも、働く親のための強力なサポートシステムが無いのが現状です。生活とキャリア保持のため、出産後すぐの復帰にはベビーシッターを雇い入れることが必要となります。でもその時給は、最低賃金の数倍! 乳児保育園に入れられる月年齢になったとしても、その保育園代は自分の月給とほぼ同額レベル! ダブルインカムでも辛いところ、シングルマザーやシングルファザーは苦悩に強いられます。よって、パートに置き換えたり転職するしか無かったり。生活に困窮する人がいるのも、このアメリカの現実です。


Kate's style Tips for you
©2021PDXCOORDINATOR,LLC

そして、ケイトさんはこう続けます。


「今の時代、私たちは思いのほか、長い人生を生きていかなければなりません。もしもあなたが、早期退職や定年をして『何か』を始めたいという気持ちがあるのなら、その可能性を探ってみるのはどうでしょうか。


人生は決して、まっすぐな道ではありません。でも大切なのは、その周りくねった回り道をあなた自身がいかに楽しんで進んで行くのかではないでしょうか。」


実は私は、ケイトさんが事業を始める前からの知り合いでした。退院後、リハビリ経過中に杖をつきながら、子供を迎えに来る姿をずっと見つづけていました。


ともすれば、サバイバルストーリー、強じんな心を持つという印象で見られがち。でも、『折れながらも、自分の人生だから前を見て進んで行くのは当たり前』と、昔より一回りも大きい、まるでひまわりのような笑顔がそこに咲いています。


今、長引くこの自粛生活よって、激変する生活環境と健康への懸念を皆抱えています。


だからこそ、起きうることに先んじて思いを巡らせる。それは、この長い人生そのものに退屈しない知恵に通じるのではないでしょうか。


自分自身を慈しみながら、自分の足で歩き進んで行くことを道しるべに。先ずは今、目の前にある何かに、ほんの少し取り組んでみる時期なのかもしれません。


次回のゲストは、ビーンtoバーで有名な WOODBLOCKチョコレートの名物CEOの登場!ローカルブランド同士の持続可能なビジネスtoビジネスを構築。オリジナル商品の 『チョコレートビール』 から、コロナ禍で生き残るビジネス戦略まで伺います。

5月25日掲載です!

PPFC Family walking from back
Photo | PPFC

「本、コト、ときおりコンフォートフード」


ケイト | she/her | ポートランド ペットフード カンパニー代表


オレゴン産チーズ、サーモン、地元の野菜、素材を生かしたシンプルな家庭の味


子供が小さい頃は、夕食時まで待ちきれない時のためにチーズを食卓に置いていました。今、カリフォルニアに住む彼らが帰省した時のリクエスト。それは、新鮮なサーモングリルと地元朝採れの野菜。そしてもちろんチーズです。今、温暖化で特産物にも変化が起こっています。地元の農家が守られ、新鮮な地元産が食卓にいつまでも並ぶ日が続くことを願ってやみません。


記:各回にご登場いただいた方や、記載団体に関するお問い合わせは、直接山本迄ご連絡頂ければ幸いです。本記事掲載にあたってのゲストとの合意上、直接のご連絡はお控えください。