今のまちづくりに必須!『4つの要素と最大のカギ』とは。日本から注目のポートランド州大プログラム

ニューズウィーク日本版掲載 2021年03月09日

Portland State University
ダウンタウンに広がるポートランド州立大学のキャンパス。最新のエコビルの真下を路面電車が通り、キャンパス内には何か所もの乗降停がある。公共交通網の発達が、学生のみならず一般市民もがダウンタウン地区に住居を求める要因の一つとなっている。Photo | Portland State

なにもない町から、注目のまちへの変容


『うわっ、なんだか辺ぴな所...。』1980年代、がらんとしたポートランド空港に留学生として降り立った私。ホストファミリーの車の窓に顔をくっつけて高速沿いを見ても、どこもかしこも緑と茶色のものばかり。


(「これからの4年間必死に勉強するしかなさそうな町。なんたって、1ドル290円代だし。」と唇をとがらせました。)


そんな数日後、ダウンタウンにあるポートランド州立大学を見学に行くという、医師でもあるホストマザーの声に心が躍ります。「アメリカの大学!キャンパスライフ!」


大きなアメ車に乗り込んだ途端、後部座席の私を振り返って一言。「ダウンタウンはね、州立大学とオフィスビル、そして小さなデパート2件ぐらいしかないのよ。レストランもあまりないから、ランチは家の近くまで戻ってからね。」えっ?ダウンタウンって、繁華街で買い物やカフェがある地域じゃないの?


でも到着してみて、直ぐ納得したのです。高層ビルは一つだけ、あとは古ぼけた中層階ビルばかりの町並み。ビジネス街として機能している割には、あまりにも閑散としています。それ以前に、大学周辺でさえあまり人が歩いていない!あまりにもさびれている区域に、愕然としたのを覚えています。


それから、約40年〜


時代と共に近代化をしながら、それ以上に町として成長を遂げたポートランドのダウンタウン。歩きやすい町へと開発され、多彩な店舗が軒を連ねます。特に、オーガニックレストラン、サードウェーブコーヒー、クラフトビールといった食の分野では米国でもトップクラスの功績です。州立大学の脇に出るファーマーズマーケットは規模が大きく、地元産の生鮮食品、ワイン、はちみつ等が特色ある彩を添えています。このような地域環境の変化に伴って、ダウンタウン地域を好んで住む市民も年々増えました。

町の変化の詳細は、過去の記事をご覧ください。

Farmers' Market at Portland State University
大学脇のファーマーズマーケット。近郊で採れるオーガニック生鮮品から焼き菓子まで、食に関する店舗が所せましと並ぶ。フレンドリーな店主が、料理方法を親切に教えてくれるのもポートランドならでは。©2021PDXCOORDINATOR,LLC

|今、日本で注目を集める『独自のまちづくりプログラム』とは?

さて、そんな町の変化を傍観するように、ポートランド州立大学は昔のままの面影を残しながら、新しい形相(けいそう)を加えて今も広がっています。最先端のエコビルの真下を路面電車が走る光景にも目が奪われる、新旧が融合したキャンパスです。


その大学に、独自のまちづくり学習で大きな注目を集めている「まちづくり人材育成プログラム」略称 JaLoGoMa*『ジャロゴマ』があります。


しかも、アメリカの大学でありながら、日本語でまちづくりを学べるというのですから驚きです!


〚*Japanese Local Governance and Management Program |コロナの影響により、今年は夏と冬2回のオンライン開催。


まちづくりと言えば、数年前から現在にかけポートランドの町には大きな変化が起こっています。

町の変化の詳細は、過去の記事をご覧ください。


そして、このコロナ禍。今年のJaLoGoMaのプログラムは、いったいどのような内容を教えているのか。そこがとても気になった私です。


という訳で、長年の友人でもありプログラムを主催、教鞭をとっている西芝雅美教授に『日本のまちづくりへのポイント』について、根掘り葉掘りお伺いしました。


今のまちづくりに『不可欠なポイント』とは...

Japanese Local Governance and Management Program
Photo | JaLoGoMa

|まちづくりの4つのポイント!

山本「どういうきっかけで、日本語による『まちづくり人材育成プログラム』は始まったのでしょうか。」


西芝「開始をした2004年当時は、行政職員対象でした。でも時代と共に変化をして、今では『住民が主体となるまちづくり』にフォーカスを置いた、だれでも参加できるプログラムになっています。」


山本「そういうニーズは、今の日本に多いのですか。公共放送のアナウンサーが、退職後の仕事として『まちづくり』を選んだ事でも、今注目を集めていますよね。」


西芝「驚くほど多いです!長年にわたって、『良いまちづくり』を探し求めている日本の地域やコミュニティーは想像以上。そのような行政、NPO、学生、そして一般企業の方が、ヒントを求めてたくさん参加しています。」


山本「具体的に、どのような事を学んでいくのですか。」


西芝「先ずは、JaLoGoMaが独自に作成した教材を使って『ポートランドのまちの仕組み』を理解してもらいます。次に、ポートランドの『住民が主体となるまちづくり』を学び。それを基にして各参加者が、『今までの自分のやり方はどうだったのか?』をじっくり考えてもらう仕組みです。」


山本「とは言っても、現実的に日本とポートランドは、町のつくりや行政のありかたが根本的に違いますよね。どのように日本にあてはめて、実行していくのか謎です。」 


西芝「実はJaLoGoMaでは、ポートランドのまちづくりの形や仕組みをそのまま日本のまちづくりに取り入れることは薦めていないのです。」


山本「えっ?そうなんですか。」


西芝「ポートランドで行われている事柄で、まず自分のコミュニティーで活用できる基本があるのかを考えてもらいます。そしてそれを、どの様に自分の地域に適応させていくのかを深堀りする。加えて、それらを皆で自由にディスカッションして広げていく。この独特のプログラムとプロセスを基にして、各参加者のコミュニティーの在りようを考えていきます。」


山本「コピペのような型枠の内容ではなく、自分のケースにあてはめて考えるというのがキーポイントの一つですね。」


西芝「だって、それぞれの地域やコミュニティーの抱えている問題はそれぞれですからね。」


山本「ところで2017年以降、市は開発や町づくりの分野で方向転換をしました。今現在のJaLoGoMaでは、どのような事に重点をおいて指導をしているのでしょうか。」


西芝「では、大きなポイントのみ4つ挙げますね。」


JaLoGoMa まちづくり4つのキーポイント


. 関係者や団体とパートナーシップを組み、協働体制で向かい合う。

. それぞれの立ち位置から、各自がリーダーシップをとる

. 行政と住民は対等な立場であり、大人と大人の関係である

. 公正性のレンズでプロジェクトを吟味する


山本「この4つのポイントを聞いて、以前お聞きした『氷山』モデルを思い出しました!」


Town development ”iceberg” model by Japanese Local Governance and Management Program

|まちづくりに必要な『見えるもの』と『見えないもの』とは?

西芝「まちづくりには、『目に見えるもの』と『目に見えないもの』があるということを忘れてはいけません。」

山本「今の時代に必要なのは、どちらでしょうか。」

西芝「両方重要です!そしてポイントは、目に見えないものを無視して、見えるものの形や枠だけを真似をして日本に取り入れようとしても無理だということです。安易に枠や形を輸入して真似しただけで満足するのでは、やはり結果は伴いません。」


山本「今、一番気になるのはコロナ禍での町づくりです。特に今年取り上げた内容はありますか。」


西芝「はい。大きく言うと3つあります。①コロナ禍で『見えないもの』に変化が生じているかを考える。SDGsで最も重要とされている コミュニティーや地域の②公正性、そして③持続可能性です。ポートランドの過去の取り組みからひも解いて、どう今に影響をしているのかを参加者と共に大いに語り合いました。」


|短期での答え出しではなく、その『枠組みを作り上げる』がカギ!

山本「ここまでお聞きして、このコロナ禍でより一層、町づくりと人とのつながりが大切になってきている気がします。」


西芝「まちづくりは、そこに住む人々から『どういうところに住みたいか』『どういう生活をしたいか』という声をしっかり吸い上げることが大切です。基本は、『人がまちを作る』コミュニティーがまちをつくる』そして『コミュニティーの強化』の3つです。」


山本「ということは、地域の多様性も必要になっている時代なのでしょうか。」


西芝「もちろんです。多様な人の意見にきちんと耳を傾けていくことは重要です。今まで話しを聞いてこなかった方の顔を思い浮かべて、その方に何らかの形で働きかけることをぜひ始めてほしいですね。」


山本「お話しを聞いていると、行政や企業というより私達一人一人が意識をして地域やコミュニティーを作り上げていく。この意識と行動が必要になっている時代、ということでしょうか。」


西芝「そうなんです。特に、それぞれの人がそれぞれの立ち位置からリーダーシップをとることは、まちづくりには外せないことがらです。」


山本「日本の町づくり。それぞれ独自の問題を抱えている地域は、一刻も早く解決したいと焦る気持ちがありますよね。」


西芝「わかります。でも残念ながら、まちづくりに関しては短期での答えだしは難しい。そして、これができれば完成といった指標はないのです。地道にていねいに時間をかけて『人を繋ぐネットワークをつくる人の話を聞く機会を増やす』と試行錯誤続けていくこと。これが、本当の意味でのまちづくりなのです。」


山本「最後に、これからの日本の町づくりに必要不可欠なことは何でしょうか。」


西芝「自分達のコミュニティーを自分達で作り上げることが可能になる『プロセス (枠組み、手順) を作る』ことが最大のカギです!今までのように、行政やまちづくり専門家による上意下達式の主導から脱皮をすることは、今の時代不可欠です。そしてなによりも、多様な人々の意見を聞き入れていく事も必要ですね。拾い上げていなかった事柄から、ヒントを得られることも多いですから。」

Couple is looking at the sun holding hands in the forest
コロナ禍の自粛生活がほぼ一年におよぶポートランド。人々の生活と感性に変化が見える中、市内に数多くある『ありのまま』の自然豊かな森林公園に癒しを求め、人は訪れる。Photo | iStock

日本でもポートランドでも、このコロナ禍で、ますますコミュニティーや地域の大切さに目を向けるようになっています。


でも、急に持続可能な地域のあり方と問われても少し難しいかもしれません。そんな中、先ずは今まで耳を傾けることのなかった、弱い声を少しずつ拾い上げてみるのは難しすぎますか。


そして、今まで声を発することが出来なかったというあなた。無理せず頑張りすぎず、優越なしに引け目を感じることもなく『半歩』踏み出してみるのはどうでしょうか。そんな、まだ見ぬあなたの声を、私は聞いてみたいです。


JaLoGoMaは、オンライン講座として今年の冬にも開催されます。日本国内で、まちづくりに取り組んでいるあなた。過去の事例のまちづくりではなく、コロナ禍で新しく追加された『実際の本場』のプログラムに参加することによって、最大のカギが見つかるかもしれませんね。


次回のゲストは、数あるポートランドの活版印刷でもポップなデザイン性で有名な『Egg Press』のCEOが登場!オバマ元大統領から直々に、『ポートランドのトップ女性起業社』と称された会社です。活版印刷ってなに?ナイキのデザイナーからの転身って?会社のSDGsとエコ印刷、そして素敵なご自宅のSDGsも探ります。3月23日掲載です!



「本、コト、ときおりコンフォートフード」

だれにでもある「まだ誰にも言わない」特別なもの。生活スタイルと影響を受けた大切なもの。

ダン|he/him|JaLoGoMaスタッフ


Between the World and Me|タナハシ・ コーツ 著、 〚ピュリッツァー賞受賞作〛


僕が、多様性のトレーニングプログラムを受けている時に読み、影響を受けた本です。アフリカ系アメリカ人であるコーツ氏自身の経験と人種差別に支配されているシンボリックな壁について、実に美しい文体で綴られています。アメリカの多様性、人種、公平、正義の変化の必要性を深く見つめている内容を読むたび、心が揺り動かされるのです。


記:各回にご登場いただいた方や記載団体に関するお問い合わせは、直接山本迄ご連絡頂ければ幸いです。本記事掲載にあたってのゲストとの合意上、直接のご連絡はお控えください。