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『新レトロ×アップサイクル』が描く持続可能な価値。ポートランドで再発見する『手書き文化の魅力』


Oblation Papers & Press
Photo |Yayoi Yamamoto_PDX Coordinator & Planner, LLC

クリスマスのイルミネーションで彩られたポートランド。地元郵便局に並ぶ人々の手には、手書きのカードがあふれています。


そんな一方、日本では郵便料金の値上げも影響し、年賀状じまいを決断する人が増えている年末。この対照的な文化は、日米における人々のつながり方やコミュニケーションのスタイルを象徴しているようにも感じます。


このアメリカのカード文化を象徴するような店舗。それが、ポートランドのパール地区に拠点を構える「Oblation Papers & Press」(以下、オブレイション)。


35年に渡り、持続可能性とクラフトマンシップを融合したブランドとして、世界中の文具・紙・活版印刷ファンの間では有名なお店です。


オーナーのジェニファーさんと夫のロンさんが手がけるこのブランドは、オレゴン州郊外のファーマーズマーケット(青空市)における手漉き洋紙販売からスタートしました。それ以来、自然由来の素材を大切にしながらオリジナル製品を生み続けています。


そのコンセプトの元となるもの。それは、若い頃にフランスで過ごしたジェニファーさんの経験。


彼女が育った時代のアメリカは、大量生産の使い捨て時代。モノが町中にあふれているマテリアリズム(物欲主義・唯物主義)が主流の文化でした。


そんなアメリカを離れ、異国の地で『美しいものを心から愛でる感性』に触れる日々。その美しさとは、価格や華やかさに依存するものではなく、日常の中にこそ特別な美しさがあるという価値観。何気ない日々の中に静かに息づく、特別な輝きを見出すことを指しているのです。


リノベーションを重ねてきた歴史ある建物内の店舗には、アップサイクルを活かした手漉きの洋紙や、オリジナルのレタープレスデザインによる印刷物が美しく並び、訪れる人々を魅了します。その横にはクラシックなタイプライターが佇み、さらに世界中から厳選された文具が一堂に揃っています。こうした「環境に優しい文房具」という新たな価値を、ポートランドの街で提案し続けているのです。


丁寧な美しさを持つものを造り、それを世界と共有する。


この理念を胸に、ジェニファーさんは世界各地で心温まるクリエイティブな試みを展開し続けます。


たとえば、フランスで定期的に開催するポップアップイベントでは、小型の活版印刷機をポートランドから運び込み、来場者が自らオリジナルのカードを印刷する特別な体験を提供。そのひとときは「わたしらしさ」を形にする、かけがえのない時間となっているのです。


一方、ギリシャでは羽ペンを使ったカリグラフィーのワークショップを開催。古代の知恵を取り入れ、山羊革という自然素材に文字を描き出します。これは、アップサイクルの元祖ともいえる素材を活用し、途絶えてしまった文化を再びよみがえらせる試みとして注目されています。


Typewriters on display
Photo |Yayoi Yamamoto_PDX Coordinator & Planner, LLC

| 美しい循環が生む新しい価値


世界が環境問題への意識を高める中、設立当初からアップサイクルに注力してきたオブレイション。衣類産業から廃棄される綿繊維を再利用し、柔らかで温かみを感じられる手触りの洋紙を製造しています。


再利用する綿素材は、Tシャツやシーツさらにはジーンズまでと多岐にわたります。


「その素材の持つ自然な色合いを生かしてカードを作っています。たとえば、ジーンズをアップサイクルした場合、とても美しい紺色がそのまま洋紙に彩づくんです」とジェニファーさんは微笑みます。


さらに、繊維素材にとどまらず、廃材段ボールをクラフト紙へと生まれ変わらせるなど、新たな素材を美しい製品に蘇らせる技術を絶え間なく追求しています。


「こうした新しいチャレンジは、私の創造力を刺激し、心を浮き立たせてくれる大切な原動力!」


さらに、ジェニファーさんは、アップサイクルを通じて地域社会への深い貢献にも尽力しています。


例えば、ポートランドに拠点を置くCHAP(子どもの癒しのアートプロジェクト)と協力し、問題に直面する子どもたちにアートの力を届ける取り組みも。


こうした取り組みに加えて、ジェニファーさんは、市民が日常生活の中で楽しみながら持続可能性を取り入れられるアイデアを積極的に提案しています。


「たとえば、カフェのナプキンに心を込めた一言を添えて送り合ったり。贈る相手のことを思いながら、雑誌や新聞をコラージュしてプレゼントの包装紙を手作りしたり。日常に創意工夫の楽しさを発信しているんですよ。」


さらに、レタープレス印刷や手漉きの過程で生まれた切れ端を袋詰めにした『スクラップパック』。この『エシカル福袋』ともいえる商品は、本来廃棄されるはずだった素材を新たなクリエイティブ資源として生まれ変わらせた象徴的なアイテムとして注目されています。


Display shelves lined with ink bottles etc.
Photo |Yayoi Yamamoto_PDX Coordinator & Planner, LLC


Owner Jennifer and her husband Ron
Photo | Oblation Papers & Press


Photo | Oblation Papers & Press

| 物語を求めるZ世代の感性


今、世界中で流れるレトロブーム。


オンラインでのコミュニケーションが主流となった現代。そんな中、手書きのカードや手紙が新たな注目を集めています。


特にZ世代の若者たちにとって、手書きのカードは『わたしらしさ』を表現し、創造性を楽しむためのクリエイティブな試みとして位置づけられているのです。


自分の好きなデザインのカードをリアル店舗で選ぶ。そして、普段ではなかなか言えない一言を心を込めてカードに書き、封筒に宛名を手書きし、切手を貼ってポストに投函する。その一連のプロセス自体が『新たな体験』として注目されています。


Z世代がストーリーを重視する背景には、デジタル時代に育った彼らならではの価値観が影響していると言えるでしょう。


日々膨大な情報に囲まれる現代の生活。そんな中で、Z世代は、自分の心に響く特別なストーリー(物語性)を「my things(自分だけのモノやコト)」として捉える傾向があります。


さらに、環境問題や社会的責任への意識の高まりも、手作りやオリジナル性に価値を見出す理由の一つとして挙げられます。


その中で、多くの顧客が特に魅了されているのが日本の文具製品です。たとえば、滑らかな書き心地の万年筆、それに調和する質感豊かな紙、そして使い勝手を追求した手帳の設計。さらには、着物をアップサイクルして作られた絹のペンケースなど。「使う喜び」を提供するこれらの製品は、今の時代においてますます求められる存在となっています。


「日本が本来持つ美意識は、消費者にとって新鮮で魅力的なものです。特に日本のデザインは、実用性を兼ね備え、美しい文化の窓口として世界中の人々を魅了し続けています。」そうジェニファーさんは静かに微笑みます。


Woman looking at grocery receipt
Photo |Yayoi Yamamoto_PDX Coordinator & Planner, LLC

| クリスマスに灯る、一人ひとりの小さな輝き


「クリスマスは、どんな人にとっても特別な時間であってほしい。」


そう語るジェニファーさんのクリスマスツリーには、彼女らしい遊び心とエシカルな視点がいっぱい。


「たとえば、食べ終わったオレンジの皮を乾燥させて作るオーナメントや、使用済みのティーバッグを蜜蝋に浸して仕上げたキャンドルティーバッグなど。こうした工夫を楽しみながらツリーを彩っているんですよ。」


ジェニファーさんのライフスタイルの基本には、過去の長期フランス滞在と生まれ故郷であるオレゴン郊外での生活の影響が息づいていると語ってくれました。


「パリの蚤の市で目にした古い家具、代々引き継がれてきた製品、捨てる前にまずは転用を考える生活の知恵。


オレゴンの自然と共にする落ち着いた暮らし。木々の香り、オーガニックの植物や手作りの製品。」


特別な美しさは、日常の中にそっと息づいています。それを見つけた瞬間、日々が静かに輝き始めるのです。


日常に潜む美しさに気づくこと。それは、あなたが望む豊かな暮らしへの小さな扉を開く鍵なのかもしれません。


美しいものは特別な場所ではなく、日々の中にそっと息づいている――そんな想いが静かに伝わってきます。


年末の慌ただしい時期だからこそ、社食のナプキンに心を込めた短い一言を添えるだけで、それがどんなに小さな言葉でも、季節の温もりを運ぶエシカルギフトになるのかもしれません。

Seasonal workers on short-term work visas working on farmland
Photo | Oblation Papers & Press

2025年最初の記事は、特別企画として【2025年ポートランドとオレゴンの『教育』】 をテーマにお届けします。

日本でも問題視されている、詰込み型教育の見直しや、家庭の貧困が生む教育格差といった課題について、ポートランドの学校の取り組み。特別インタビューを通じて、最新のDEI(多様性・公平性・包摂性)の視点から深掘りし、教育の未来へのヒントをお伝えします。 2025年1月末に掲載予定です!


本年度も当記事をご愛読いただき、心より御礼申し上げます。

ポートランド、オレゴンのありのままの姿や、そこでの生き方考え方を通じて、皆さまの日々に新たな視点や気づきをお届けできていれば幸いです。


来年も引き続きお楽しみいただける内容をお届けしてまいりますので、変わらぬご愛読のほどよろしくお願い申し上げます。

巳年にちなみ、皆さまの歩みがしなやかに、そして確実に実を結ぶ一年となりますようポートランドの地よりお祈りいたします。


記:各回にご登場いただいた方や記載団体に関するお問い合わせは、直接山本迄ご連絡頂ければ幸いです。本記事掲載にあたってのゲストとの合意上、直接のご連絡はお控えください。





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