
2025年初春、首都ワシントンでは混乱の嵐が吹き荒れる中、ポートランドには新たな希望の風が流れ込んでいます。
その源は、民主党派の新市長とともに導入された市議会の革新制度がもたらす、新たな可能性への扉です。
前市長ウィーラー氏は、在任中のBLM(ブラックライブズマター)運動を契機に市民からの強い批判や不満を背景に、再選出馬を断念。新市長の座を巡り、数名の政治家や行政関係者が立候補しましたが、いずれも敗退しました。
最終的に、ポートランド生まれで、ビジネスマンとして町を革新することを掲げたキース・ウィルソン氏が選出され、多くの市民が彼に新たな希望を託しています。
同じビジネスマン⁉ と思われるかもしれませんが、そこはポートランド。新市長はまったく異なるタイプです。
新市長が掲げたビジョンと計画は、ポートランドが直面している課題にどのように応えるのでしょうか。そして、古いコミッショナー制度からの脱却は、この町にどんな未来を切り開くのでしょうか。
その中身を深掘りしていきましょう。

| 改革×行動:地に足をつけた市長の挑戦
新市長のキース・ウィルソン氏(61歳)は、ポートランド市内で30年間運送会社を運営してきたビジネスマン。再生可能ディーゼル燃料の活用や電動トラックの導入を進め、業界で環境負荷削減をリードしてきました。
さらに、15年間にわたり市内を歩き、地道にホームレス問題に取り組むNPOを設立。一市民として行動し、自ら実践し続ける姿勢で、多くの人々に希望を与え続けている人物です。
ウィルソン氏が最優先に掲げる公約は、シンプルかつ明確です。
「1年以内に、すべての路上生活者をシェルターに移すこと。」
コロナ禍後、全米で深刻化したホームレス問題。その影響を受け続けるポートランドの課題に、真っ先に取り組む方針です。
では、どうやって実現するのでしょうか?
「空き建物や教会をシェルターに改装し、ホームレスに安全な居場所をまず提供します。その拠点を基盤に、社会復帰や恒久的な住居へのステップを支援する仕組みを作り上げ、そして....。」と具体策を次々と示します。
とはいえ、この計画には2500万ドル(日本円で約3億8500万円:1ドル154円換算)が必要です。さらに物価や人件費の高騰を背景に、「この予算では不可能」という専門家の厳しい指摘も。
それでもウィルソン氏はこう語り続けます。
「予算が足りない? だから諦める? そんなことはあり得ません! 私は前例を打ち破り、新しいポートランドを築くために邁進します。この挑戦こそが、私が市長として果たすべき役割だと考えています!」
彼の情熱と実行力が、この難題をどう乗り越えるのか。市民たちの期待と不安が交錯する中、その手腕が試されることになります。
市の主人公である住民の中には、税金の使い道に疑問を抱く声もあります。しかし、新市長の計画が前進すれば町が変わると期待を寄せる人が多いのも事実です。
では、新体制がどのように市民の期待に応えるのでしょうか?
その全貌は、廃止された歴史的制度がもたらす変革の中にあります。

| 110年の呪縛を解き放つ、ポートランドの新たな挑戦
この歴史ある制度の特徴は、『少人数の議員が、各行政局を直接担当する(特定の行政部門・局に議員が直接関与する)仕組み』という点にあります。
1901年(明治34年)にテキサス州の地方都市で始まったこの制度。ポートランドでも1913年に導入され、それ以来適用され続けてきました。
近年、日本から行政視察に訪れる人々は、『迅速な意思決定が可能』『地域住民の声を反映しやすい少人数制(エコ議会)』といった特長から、この制度を高く評価してきました。
しかし、誤解が生じたのは、市長1名とコミッショナー5名という少人数の運営体制が、完全なる成功例として紹介されたことです。
実際、数十年前から多くの市民は、この制度が現代の行政システムやポートランドの人口規模にそぐわないと考えていたのです。ポートランドブームが起こる前からその声は上がり続け、市民投票による廃止を求める動きが長年続いていました。
その理由は、各議員がそれぞれ異なる行政局を直接担当することで、多くの問題が生じていたと指摘されてきました。
「例えば、議員が自分の専門分野に注力するあまり、市全体で優先すべき課題が後回しにされたり。議員間の調整が不足して公共事業やインフラ整備が計画通りに進まなかったり。このような問題が長年にわたり市民生活に直接的な悪影響を及ぼしていました。」
そしてついに、2020年の市民投票によって、この古い行政体制からの脱却が決定したのです。
【 2025年1月からのポートランド市の新体制 】
ポートランド市長:市全体の方針を決め、予算を管理。行政サービスの向上を目指す役割を担う。
副市長:新体制でも、副市長職は設けられない。
12名の市議会議員:選挙で選ばれた議員たちは、新たに導入された『地区・地域担当制』の下、それぞれの地域の課題に対応。地域市民の声を吸い上げ、市長を補佐しながら市全体の方針や予算調整を進める。
この新たな地域担当型システムでは、コミッショナー制度の下で行われていた、議員が特定の行政部門を直接管轄する仕組みを廃止。その代わり、地域住民の声を幅広く取り入れ、政策に反映させることを重視しています。
これにより、市全体の課題解決に向けたバランスの取れた政策が実現しやすくなると期待されています。

| 声を拾い、行動で答える
今、ポートランドでは、地元の小規模ビジネスを支援する政策が注目を集め始めています。空き店舗や施設を活用し、スタートアップを誘致することで、地域産業と連携した新たなビジネスモデルが少しずつ活性化している様子です。これらの取り組みは、日本の地方都市にとって地域経済を活性化する新たな視点を提供しています。
さらに、日米共通の課題である高齢化社会への対応も見逃せません。地域住民の孤立を防ぎ、高齢者を支援するため、コミュニティスペースの設置や交通支援サービスが進化を遂げています。これにより、地域全体のつながりが深まると期待されています。こうした取り組みは、日本が直面する少子高齢化問題にも大きなインスピレーションを与えそうです。
このように、新体制が特に重視するのは、『住民の声を的確に反映する仕組み』です。
市民参加型の政策決定プロセスにより、柔軟で公平な行政運営が現実のものとなりつつあります。このモデルは、地方自治がさらなる進化を遂げるための新たなヒントとなるかもしれません。
| 2025年、新時代へ移行 ~ ブラッシュアップ
かつて成功を収めたポートランド。しかし、その裏では隠れた課題や失敗もありました。
そして、2025年から始まる新しい行政改革を通じて、ポートランドは再び前進しようとしています。
この変革のプロセスは、日本の地方行政にとっても多くの気付きのきっかけとなると感じています。
さらに、実に多くの行政職員や公共機関の職員から、切実な声が繰り返し上がっています。
「 『10数年前のポートランドのイメージ』 が、いまだに日本では根強く残っているようです。そのため、過去の情報をもとに訪れる人々が現地の変化に戸惑うことも少なくありません。
だからこそ、最新の情報に基づいたポートランドの変化を正確に知ってほしい。そして、進化を続ける今のポートランドに、ぜひ目を向けてほしい。」

ポートランド市が失敗を認め、そこから学び続ける謙虚な姿勢と改革。これこそが、この町の本当の強みです。
2025年は、米国全土だけでなく、町としてのポートランドが新体制下で一歩を踏み出す重要な年。
その変化を客観的かつ誠実に追い続け、日米両国の事情を深く理解し、実際に生活する目線で、読者の皆さまの暮らしに役立つ情報をお届けすることを心に刻んでおります。
『 最新のポートランド&オレゴン 』を『 第3者という視点 』で捉え、現地のリアルな姿を真摯に伝える記事をこれからも発信してまいります。
次回は、【2025年ポートランドとオレゴンの『教育』】を深堀り!
日本でも問題視されている、詰込み型教育の見直しや、家庭の貧困が生む教育格差といった課題。さらには、突然否定され始めている米国でのDEI(多様性・公平性・包摂性)。特別インタビューを通じて、教育の未来へのヒントをお伝えします。 2025年2月末に掲載予定です!
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