ここ数年、全米でも環境的にも新しい産業としても大きな注目を集めている『アップサイクル』。
日本でもつい先日、製菓会社の廃棄米と紙素材メーカーの協業による新たな名刺紙が発表されたり。また、廃棄される果実の皮から作られたヘアケア製品なども登場しています。
このコンセプトをいち早く取り入れ牽引してきたのが、ポートランドを拠点とするポートランド・ガーメント・ファクトリー(以下、PGF)です。
アップサイクルは、環境への負荷を軽減し、持続可能性を向上させる手法として今、世界中から注目を集めているプロセスのひとつ。
リサイクルとは異なり、廃棄物や不要な素材を再利用し、その素材を価値の高い製品や素材に変え、価値を向上させることを目指します。
大量生産や効率性、コスト削減に焦点を当てた伝統的な工場モデルが主流の中、PGF(2008年創業)はその枠組みを変え、積極的に時代の先頭に立ち、新たな挑戦に取り組んできました。
その働きは多岐にわたり、多様な企業やビジネスと協力しながら革新的な成果を生み出しています。その努力は多方面で称賛され、ポートランド ビジネスジャーナル誌の『中小ビジネス・イノベーション』受賞に至っています。
しかしそんな華やかなファッション・繊維ビジネスの成功の表舞台に立つ一方で、リアルな起業は多くの困難と共に進行していくのが常。
放火による工房火災、コロナ禍、資金難などの試練。それらの経験から再生と学びが生み出すコア・バリューとは何でしょうか。
これは、持続可能なビジネスの挑戦から生まれる新たな価値への追求ストーリーです。
『Bコープ』の理念に基づく持続可能なビジネスモデル
PGFの創設者でありデザイナーのブリットさん。
バンクーバー芸術・学術学校に通いながら、洋服や立体小物の制作を続けました。しかし、自分が望む制作コンセプトを提供する就職先はなかなか見つからず。
紆余曲折の後、2008年に地元ポートランドに縫製製品会社を立ち上げます。
「とはいえ、新人の起業家、特にファッションブランドには資金を貸してくれる銀行はほとんどありませんでした。そこで、初期費用として友人やその家族から約30万円を借り、小さくスタートを切ったのです。その後、地元の銀行からようやくローンを得られるまでの11年間は、自己資金で事業を回し続けてきたのです。」
起業家にとって、信用を得るまでの資金繰りの厳しさは、日米共通の悩みです。
しかし、銀行側から見れば、経営不振や破産率の高さが融資の障害になるという課題もあります。
このような状況の中にも関わらず、PGFが掲げるコンセプトは、廃棄物ゼロを目指すこと。さらに、企業の社会・環境への影響を測定する認証制度である『Bコープ価値観』の尊重だと言います。
では、そのBコープとはどのようなものなのでしょうか。
Bコープ企業 ➡ 社会的責任と環境保護の双方を重要視。従業員の幸福、地域社会への貢献、環境への配慮、公平な顧客対応を行う企業を指す。
Bコープ国際企業認証 ➡ 自己利益だけでなく公益も目指す姿勢を評価し、社会や環境の観点からその事業活動を評価する認証。持続可能なビジネス活動を促進することが目的。
「生産工程全体を通して繊維廃棄物を最小化、または排除することが廃棄物ゼロを実践する基本です。
そのためには、生地の使用量を最大化するためのパターン作成技術を導入したり。生地の端切れを再活用するなどの取り組みが重要です。
同時に、環境に優しい素材や持続可能な生産方法を提供するサプライヤーと提携し、リサイクル・プログラムを実施しています。」
さらにブリットさんはこう続けます。
「持続可能性が注目される中、世界の多くのビジネスが廃棄物削減に着手できていない実情があります。
地球環境に配慮し、持続可能な製品を提供すること。そのためにも、再生可能エネルギーの利用やリサイクル材料の使用による『アップサイクルへの転換』は必要です。
この取り組みによって地域や社会、そして地球のニーズに応えること。これが、現代において求められるバランスの取れた企業への道を開く手段だと思うのです。
もちろん、新たな挑戦には常に困難がつきもの。でも、ここで忘れてはならないのは、常にワクワク感や楽しさ、驚きを意識することの重要性。
これは、クリエイティブにモノ・コトを生み出す時の潤滑剤!必要不可欠なエッセンスなのですから。」
アップサイクルの成功の鍵?
しかし、そのアップサイクル。現代社会において本当にビジネスとして成り立っているのでしょうか。
「注文するブランドやビジネスパートナーは、着実に増え続けています。以前は小規模なエココンセプトのブランドが主流でした。しかし最近では、有名アパレルやスポーツブランドという大手メーカーからの発注が増加しているのは、うれしい悲鳴です。」
大企業と地元工房のコラボレーションの大切さ。同時に、横のつながりという提携ブランドを多く作り上げることも重要だと説くブリットさん。
世界の多くの企業が、持続可能性や地球環境への意識を高め、モノづくりに力と資金を積極的に注ぎ始めた今。従来の企業同士の上下関係に縛られず、各社が自らの役割に責任を持ち、積極的に業務に取り組む姿勢。こうした動きが、新しいビジネスコンセプトの潮流を牽引しているのでしょう。
特に最近のポートランドでは、ビジネス環境における協働の重要性がますます認識され、その変化を明確に感じています。
そんなアップサイクル製品は、地球環境にとって理想的なものです。とはいえ、どうしても新品よりも価格が高くなる傾向があります。
この物価高騰のご時世。
では、アップサイクル商品に対する理解や受け入れは、どのような状況にあるのでしょうか。
「製品の市場での成功には、価格と品質のバランスが不可欠なのは言うまでもありません。
経済的な観点から製品の競争力を考えると、アップサイクル製品は原材料調達コストが抑えられ、製造プロセスの環境への負荷も低減されます。
また、環境配慮型の製品に対する需要が高まる今、消費者は価格以上の価値を求める傾向があります。
そのため、価格競争力だけでなく、持続可能性や環境への配慮といった独自の付加価値を提供すること。ここに力を入れることが肝心です。」
高品質で手頃な価格の製品を提供し、デザイン性にも優れるPGF。これは、消費者が経済的な価値と品質を同時に求める現代のニーズに応える良い例です。
また、変化に迅速かつ柔軟に対応し、進化し続ける姿勢。
それこそが、今後のアップサイクルビジネスの成功の鍵だと感じます。
Invite challenge...挑戦を受け入れる精神!
『挑戦を受け入れ、立ち向かう!』この言葉を企業のコア・バリュー(基本的価値観)の一つとして掲げ、売り上げを伸ばし続けるPGF。
なんと、この価値観が生まれたのは、2021年の放火火災の被害を受けたことからだと言います。
「火災からの再生は、精神的にも経済的にも大きな打撃でした。しかし、地域の友人たちの支えと、献身的な従業員の働きと共に、奇跡的に復興の道を歩み始め、今日の強固なブランドとして存在しています。」
試練に立ち向かう時こそ、真の強さが内から湧き出る
「逆境に直面しても、前向きな姿勢を貫き、新たな可能性を追求することが私たちの使命です。
ビジネスの再構築の過程で学んだことは、与えられたチャンスを最大限に活かし、未来をより良くする方法を模索することの重要性。
襲い掛かる挑戦を受け入れ、立ち向かいながら前進すること。そこから、新たな可能性を模索し、未来への希望を持ち続けることの重要性を再確認しました。
ビジネスを運営し、複数業務を行い、かつ創造的であり続けるということは、常にエネルギーが必要とされます。
崩れ落ちそうになった時、私自身は、こう言い聞かせるのです。
「自分自身には創造力がある。アイデアは無限に湧き出てくる。大きな問題が立ちはだかっても、一つずつそれをやっつけ続けていくことで克服は必ずできる。一度に一つずつ問題を解決しながら、日々を勝ち取っていこう。」
アップサイクルの先駆者として、起業家として未来への可能性へと走り続けるブリットさん。その姿は、知恵の実が豊かに結実する大樹のようです。ここからさらに、新たなモノづくりの枝葉が広がっていく。そんな感覚に包まれました。
この時代、SDGsが注目を浴びる中、私たちはひとりひとりが地球環境への影響について考える機会が多くあります。
人々の消費行動や考え方は、ゆっくりとしか変わらないもの。でも、その少しの気づきや視点の変化が、私たちの未来をやさしく彩るのではないでしょうか。
あなたが望む未来を築くきっかけとなるその小さな選択。その一品が、地球に寄り添うささやかな贈り物になるかもしれません。
さて今日あなたは、どのようなモノに目を留めますか。
次回は、『ポートランド流・健康』をベビーブーマー世代の写真家(なんと、元オリンピック選手!)に教えていただきます。人生の楽しみ方、見つけ方って? 今のあなたに必要なことは? 健康寿命の3つの柱「運動」「食生活」「社会参加」を元に、具体的に何をするとカッコよくいられるの? どうやって魅力的な思考を維持しているの? 知りたいことをたくさん深堀しちゃいます!6月下旬掲載です。
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