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シニア×Z世代、共に築いた6万件の起業―ポートランド発『第二幕の知恵』とは?!

  • pdxcoordinator
  • Aug 29
  • 5 min read

A young woman is talking to an older man at the cash register
Photo |Courtesy SCORE

『引退後の人生』は、終わりではなく、新しい幕が開く瞬間。


この町で広がる風景は、日本社会にとってどんな未来図へとつながっていくのでしょうか。


セカンド・アクト。米国では、近年よく耳にする言葉です。


ベビーブーマー(団塊の世代)の人々が第一線を退いたあと、新たな挑戦や役割を担う「人生の第二幕」を意味します。


引退を「終わり」とせず、むしろ「新しい幕開け」として捉える発想が広がりを見せています。


背景には、人生100年時代を迎えた価値観の変化があります。


キャリアを積み重ねてきた人々が、定年後も学び直しや社会との関わりを求めているのです。


その舞台として注目されているのが、1964年にワシントンD.C.で誕生した全米組織の非営利団体SCORE。


SCOREとは、経験の学校であり知恵の宝庫。そして、そこに集うのは、キャリアを活かして未来を支えたいと願う人々です。


では、アメリカの人々はどのようにして人生の第二幕に生きがいを見いだし、次世代へ経験を引き渡しているのでしょうか。


そしてその姿は、日本にどんな未来のヒントを示してくれるのでしょうか。


さらなる答えを探るカギを、ポートランドから読み解いていきましょう。


Four elderly men and women are standing and smiling
Photo |Courtesy SCORE


引退の先にある『第二幕』― 6万件の起業を支える知恵のコミュニティ


SCOREは、ボランティアによって営まれる全米組織です。長年、起業家や中小企業を支援し、新しい事業と雇用を生み出してきました。


2024年度だけで、全米で6万件近い新規ビジネスが誕生。そこから14万人以上が新しい仕事を手にしています。


その仕事は、地域に根ざしたカフェやショップ。さらには、IT、教育、ヘルスケアといった、次世代を支える産業まで広がりを見せているのです。


ここで注目したいのは、SCOREのボランティアは、余裕があるから活動しているのではないという点。


多くの人は、キャリアで培った知識やスキルを次世代に手渡したい。その思いに突き動かされて活動しているのです。


そして、その思いは、自らの経験が未来の力へと変わる喜びとなり。同時に、『いまも社会の一員として生きている。』そんな、誇りと生きる目標へと繋がっています。


ここポートランド支局では、常時およそ50名のボランティアが活動中。


なかでも注目されるのが、CEOフォーラム。いわば、中小企業の経営者向けのサポートシステムです。


資金繰りや人材育成といった悩みを率直に語り合う―そこは、『同じ立場だからこそ言える本音』が飛び交う場です。


守秘義務があるからこそ安心して語れる。仲間同士が知恵を持ち寄り、支え合う姿は、まさに知のコミュニティ。時代が求める新しい学びのモデルではないでしょうか。


私たちはいま、シニア世代・ミレニアル世代・Z世代が共に働く、人類初の3世代勤労時代を生きています。


SCOREの現場では、その世代を超えた協力・協働が、日々の営みとして当たり前のように根づいているのです。


では、彼らがどのように若い世代を支え、同時に学んでいるのか。

次のページで、その姿をさらに掘り下げてみましょう。


A young man and an older woman are talking while looking at surfboards
Photo |Courtesy SCORE

シニアとZ世代が出会う―未来をつなぐ学びのかたち


SCOREの魅力は、一方向の指導にとどまりません。そこにあるのは、Mutual Learning―相互に学び合う文化です。


シニア世代は、経営や組織づくりの知恵を伝え、若い起業家を後押し。その一方で、自らもSNSやAIといった新しい知識を学ぶ機会を得ています。


若い世代を支えながら、自分も新しい刺激を受けて成長していく。


その有機的な関係こそが、三世代が共に未来を築いていく基なのです。


そして、この活動を支えているのが「S・L・A・T・E」と呼ばれる独自の指導法。


S =判断を保留する(Stop)


L =耳を傾け、学ぶ(Listen)


A =状況を整理し、分析する(Assess)


T =試してみて、道具とともに伝える(Test)


E =夢を励ます(Encourage)


つまり、相手を尊重しながら共に考え、学び、そして夢を応援する姿勢。これこそが、世代の壁を越え、不可能に思えたアイデアが走り出す瞬間につながるのです。


たとえば、乳幼児向け託児所の開設を夢見た二人の女性。経験も人脈もほぼゼロ。それでも、経験を積みながら、シニアボランティアからの知恵を共に、資金調達を進め。同時に、認可を取得。さらにマーケティングを整える―。


小さな一歩を『一緒に』積み重ね、夢は少しずつ形になっていきました。


そして2021年、ついに開業を実現。現在は15人のスタッフを抱え、地域に欠かせない存在へと成長しています。


ここにあるのは、夢を共に育てる場所としてのコミュニティの姿です。


Cherry blossoms in full bloom and guardian lion statues in the garden
Photo | Yayoi Yamamoto, PDX Coordinator & Planner, LLC

人生100年時代 ― 定年後を『生きがい』に変える日本へのヒント


日本では「定年=引退」という考え方は、すでに現実に合わなくなっています。


多くの人が、生活のために働き続けているのが実情です。


けれども、その働きが同時に『生きがい』へと結びついたなら。社会の景色は、もっと変わって見えるのではないでしょうか。


SCOREのボランティアの姿は、日本の年配世代にも大きなヒントを与えてくれます。


長いキャリアで培った経験や知識は、社会にとって大きな財産です。


とくに人材不足が深刻化する日本。


シニア世代の参加は、労働力の補いにとどまらず、新しい発想や価値を生み出すきっかけにもなり得ます。


人生100年時代に求められるのは、単なる労働ではありません。


自らの経験を誰かのために役立て、その喜びを力に変えていくこと。その積み重ねが、社会全体を前へ押し進める力となっていくはずです。


―日本で「第二幕の舞台」を思い描いてみたとき。どんな未来が浮かんでくるでしょうか。


そして、その未来で、『あなたは』どんな姿で関わっていると想像できますか。


【次号予告】


不法移民問題で揺れるアメリカ。


幼い頃、メキシコから国境を越えた少女。 学もなく、掃除夫として働き出すしかなかった―。


差別、蔑視の中でもがきながら、やがてシングルマザーとなり、掃除会社を立ち上げる。 20人の従業員を抱えるまでに成長した彼女が、最後に挑んだものとは。


尚、来月は東京出張のため休載。次回の寄稿は10月末です。



記:各回にご登場いただいた方や記載団体に関するお問い合わせは、直接山本迄ご連絡頂ければ幸いです。本記事掲載にあたってのゲストとの合意上、直接のご連絡はお控えください。





 
 
 

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