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若いZ世代が切り開く『子供の貧困とエンパシー』ポートランド編

Children reading a book
コロナ禍によって、弱い人が一層弱い立場になり下がる。そんな現状が、すでに始まっています。貧困から、なかなか(ますます)抜け出せない現実。親子の自立を目標にした、総合教育支援機関に助けを求めて訪れる人。そこには、想像を絶するストーリーがあります。 Photo | iStock

大人が子供にするべき責任。それは、生まれ育った家庭の経済・社会状況にかかわらず、未来に希望を持ち、自立する力を伸ばすことのできる機会と環境を提供すること。


にもかかわらず、ここ数年、悲しいニュースを目にしない日はありません。それもそのはず、今日の日本では、7人に1人の子どもが貧困状態にあるといわれています。


経済協力開発機構(OECD)の最新データを見ると、日本の子どもの貧困率は42カ国中21番。特に目を引くのは、ひとり親世帯の貧困率です。なんと、韓国、ブラジルに次いで3番目の貧困率の高さとなっています。


では、子供の貧困層の歴史が長いアメリカではどうでしょうか。ひとり親世帯の貧困率は、日本より低く第7位。とはいえ、数字上では似たり寄ったりです。


そんな日本と米国の共通点。それは、1990年後半から2010年位までに生まれた世代を示す、『Z世代』のひとり親が特に多いという点です。


このZ世代の全体傾向として、自ら助けを求めたり、名乗りを上げたりすることを非常に苦手とします。


支援やサービスを提供する方の考え、文化や年齢と、受ける側の価値観のギャップが生じるのは、どの業界でもある話。受け取る側の価値観をうまく捉えていないと、いくら良いモノ・コトであっても、提供する施策が心に響きにくくなる。それでは、労力と費用の無駄使いです。


そんな中、ポートランドにある『生活に困窮している親と子へのサポート』支援機関が注目を集めています。


これからの時代を担うZ世代の働き手 。そして、コロナ禍で始まったニュー・ノーマルの生活をけん引する働き方。エンパシ―(共感性)をもって、社会に働き還元するマインド。


現在日本が直面している、ジェネレーションの分裂化と乖離(かいり)の問題。地域、コミュニティー、文化、ビジネス企業や組織作りに対して、何かしらのヒントが読み取れるかもしれません。


Amanda reading a picture book via video call
コロナ禍中、子供達に直接学習を施すことが出来ないのが寂しいところ。画面を通してでも、『読み聞かせ』は大切な学習のひとつです。絵本を読んであげると、真っ正直に喜ぶ子供達の姿。それは、自分の喜びに等しいと言います。 Photo | Amanda Ivie

|貧困から自立へ、移行させるプログラム


子どもの貧困。これは決して他人事ではなく、その国に住む『あなた』に関わる自分事として影響があります。今後も続く日本の少子化問題。そこに輪をかけて、貧困から抜け出ることができない若者、そして成人して子供たち。


とはいえ、「では、どうすればよいのか。」その答えは、そう簡単に出るものではありません。


最近特に、現在の社会状況を考える機会が多くなった著者(山本)。というのも、特別児童養護施設の学童へのボランティア団体を東京とNYで運営。そして、卒寮者の支援を長年続けているという背景があります。その経験から、ポートランド近郊都市ではどの様なサポートが行われているのか。


そんな時に出会ったのが、アマンダさん。20代前半というだけでは言い表せない、華やかさとやすらぎの両方を兼ね備えた女性です。


彼女が勤務するのが、行政(州・連邦政府局)基金と支援金によって成り立っている、クラカマス・カウンティ―・チルドレン・コミッション(以下CCCCと訳す)。親から何代も続く貧困やDV。児童虐待やネグレクト。レイプや無知ゆえの妊娠など。様々な理由から支援を必要とする、『妊婦と出産』『5歳までの子どもとその家族』、そして『将来の自立支援』をサポートする親と子のための総合教育支援機関です。


具体的には、保育・幼児教室、家庭訪問型学習、親の成長クラスといった、学習成長プログラム。社会交流・交友作り、親子遠足、お遊び会といった、孤立する親子が社会に順応し人間関係を構築するプログラム。また、子供たちの発達・発育・知能検診、食育・栄養等の健全な身体を作る知恵も提供しています。


幅広い内容が特徴ですが、全てにおいての目的は、親子が自立をして健全な生活ができるようになること。そこに焦点を置いていると話を続けるアマンダさん。


Children playing Taco stand
ごっこ遊びは、社会性・生活・人間関係・金銭感覚等を学ぶ、大切なプログラムの一環。何よりも、子供達には、幼少期に「社会や生活には、楽しいこともある」という体験が必要です。 Photo | Courtesy CCCC


Diary
自分を上げるために、毎日同じことをする。すると、それがゾーニングとなって心の切り替えがし易くなります。アマンダさんの日課は、毎朝ほんの数分かけて『感謝の項目』をさっさっと書くこと。一日を前向きな気持ちで始められるようにと。そんな思いから始めました。 Photo | Amanda Ivie

| 若い世代が必要とする『アウトリーチ』、日本との類似点


CCCCの支援プログラムを提供した家族の数。それは、去年1年だけで1000弱にも及ぶと言うアマンダさん。そして、驚くべき数字を見せてくれました。


「私たちが支援を提供する家族のほとんどは、生活困窮者や低所得者です。40%がホームレス経験者。26%が貧困ライン以下の収入。14%が公的扶助を受理中。9%が貧困層。7%が超貧困。4%の子供は、里親のもとでの養育が余儀なくされています。


親子がおかれた壮絶な人生。断ち切れない貧困や暴力のループ。小説より奇なり、というケースを私たちは想像することしかできません。ほとんどの親や子は、たまたま、そんな家庭に生まれついてしまった。日本やアメリカという、先進国での貧困層の悲しい現実です。」


例えば、シングルマザーの一般のケース。彼女たちは、生活をしていく為に働きづめ。疲れ切って、乾ききって、子供の心に寄り添う余裕すらない人がほとんどです。


今、支援を必要としている多くの若い世代の親たち。そこには、日米のZ世代の共通点があります。それは、支援が必要な人が自らセンターなどに足を運ぶことに対して、高いハードルを感じることです。自力で手を挙げて助けを求めること、イコール自己主張することに躊躇する世代であることが、孤立を高めています。


現在、高齢化社会が深刻な状態となっている日本。今、そしてこれからの社会を作り上げていくZ世代への理解は重要です。それらの価値観を受け入れ、対応した企業や組織づくりを進めなければ、成長は見込めないからです。


助けてもらうのに、何を甘いことを言っているんだ。そう思う方も多いでしょう。でも実際、本当にもがき苦しんでいる人は、「苦しい」と自力で声をあげることができない。ですから、声掛けと同時に支援をする側がアウトリーチという形でのサポート体制をすることで、その効果は高まります。


「今の時期、特に社会と文化は日々変化をしています。ですから、すべての分野の業種は、多様性、持続可能性という目標に向かって努力することが求められます。提供する側は、常に学び、新しいシステムやプログラムを取り入れる。変化をしながら、持続的にプログラムを改善していくことが必要になっているのです。」


サービスや支援を提供する側だと言って、甘んじていると効果は低下・低迷し続けます。ということは、公的資金や支援金を流し捨てているのと同じ。そんな、もったいない事にもなり兼ねません。


社会的弱者が必要としているニーズに合うために、行動をしていく必要性。どうすれば、どう動けばより良い結果が出るのか。常に、供給する側の人間も成長し続けること。そして、今の時代と文化に合わせたやり方で、結果を出していくことが必須だと話すアマンダさん。


幼少時の貧困や環境の劣悪からくる、低い学習能力や社会的経験不足。子供と親になった若い世代の人生に、社会全体に、どのような悪影響を及ぼすのか。こんな質問に対し、こう話し続けます。


「幼少から低学年の学習は、子供の人生における強い基盤を作る大切なものです。でも忘れがちなのは、社会的情緒スキルの大切さです。


健全な人間関係を形成するために、大切な感情の共有やコントロールの仕方。これは子供だけではなく、親世代の大人の成長にとっても重要になります。


特に、静かな暴力のネグレクト(育児放棄、幼児放置)。そして、表面だった暴力のDVやハラスメント。これらは、子供自身にとっても、そして社会全体にとっても、大きな問題に直結します。現実的に、何代も続く悪の行為の連鎖を断ち切ることは一筋縄ではいきません。世代をまたいでのトラウマは、想像を絶するほど深いものです。」


自分には子供がいないから関係がない。自分が生きている間には、社会もそれほど変わらないだろうし、増税もそこまでは影響しないだろう。そういう発言をよく耳にします。自分さえ良ければ、自分が大事に思う人さえ良ければ、あとはどうでもいい。そう考えるのは普通のことだと思います。


「もし出来ることなら、まったく会ったことのない。けれども、たった今、日々の暮らしに苦しんでいる人のことをほんの少し想像をしてみる。真剣に考えてみる。そんな思考が、自分が大切に思う人と、より一層心を通わせることに繋がるかもしれません。」


3 Tips to Reset Your Mind

| 自分を育てること。そして次の世代のロールモデルになること


Z世代は、仕事よりもプライベートを重視。自分という個を尊重する傾向にあります。また、生まれた時からシビアな社会・家庭状況を体感している数が多いのも特徴です。そんなことから、他のジェネレーションよりも社会問題への興味や関心が深いといわれます。


そんなZ世代ど真ん中のアマンダさん。シンパシー(相手をかわいそうと思う気持ち、同情・思いやり)を超えて、エンパシ―(相手のことを自分の事のように思いやる気持ちと感情)を高く持ち得ている理由を聞いてみました。


「実は、私の母は低所得の家庭出身でした。そんな環境から脱皮するために、必死に働きながら大学に通ったんです。女性が自立して生活ができること。そこを目指して、医療技師の免許を取得したという経緯があります。


母はたくさんの事を教えてくれました。多くの人から受けてきた愛。それを社会に還する大切さ。周囲の人々への思いやり。困っている人を助けることの必要性。そんな環境から、私自身も、多くのボランティア活動を進んでするようになったのです。


教育の大切さ、必要性。このことを肌で感じていたこともあって、大学では教育学を選択しました。実は、その在学中のインターンシップで、今の自分の基礎が作られたある出来事が。


それは、極度の虐待やネグレクトを受けてきた子供達との合宿中のこと。感情面や行動面で深刻な悩みを抱えている子供達。小さい身体で、大きなトラウマに苦しめられている姿や経験談をいくつもいくつも、何日にも渡って聞き続けました。想像を絶する経験に、私自身の胸も張り裂けそうになって。それを機に、この分野で貢献をしたいという気持ちが固まっていったのです。」


そこから、ものごとや行動の背景を想像するように意識をし始めたアマンダさん。自然と、でも必然的にエンパシ―を持つマインドへと成長していった。そう回想してくれました。


今の20代は、現在の新しい価値観と働き方を持ち合わせ、同時に模索している最中だと話します。ですから、それぞれが各分野のロールモデルになっていくことが必要だと。加えて、次の世代のロールモデルになるためにも、小さな範囲でも「ここを変えたい」と声に出す、意識することが求められていると言います。


「私自身、ここを変えたいと思うところ。それは、働きすぎて燃え尽きてしまう可能性を少しでも取り除きたいのです。実際、私を含めて多くの人が『コロナ疲れ』を経験中です。特に社会に出たばかりの若い人の疲弊ぶりは酷いです。多くの友人は、失業や失業への不安、病気・感染、社会的な孤立などの脅威に常にさらされていると感じて、疲れ果てています。


この状況下で、自分の身体のセルフケアをすることは不可欠な行為です。ですから、常に意識をして、仕事とプライベートの境界線を明確に引くように努めています。時代の差かもしれませんが、私たち若い層は、自分の身体を壊してまで働く。そういう感覚に対して恐れを持っています。とはいえ、知らず知らずのうちに、自分の身体から目をそらして、自分の内なる声を無視して働き続ける自分もいます。健康を害したら、働くこともできないのに。」


今は、過去の歴史から見ても珍しく3世代が一緒に働く時代です。その中で、Z世代が新しいロールモデルを作り上げながらニュー・ノーマル時代をけん引していくことが、この社会には必要なところ。頑なにならず柔軟に、3世代が一緒に成長していくことができれば、こんなに素敵なことはありません。


ですから、まずは多くの人に『知ることの大切さ』を伝えたい。そして、想像をもって接していってほしい。アマンダさんは、そう締めくくってくれました。


遠くの大きい出来事に、目を留めることは大切です。そしてそれ以上に、困窮している人だけではなく、自分の身近で必要があるという人に目を配る、言葉をかけることも大切です。


人は食事をすれば、生きていくことはできます。けれども、愛情という栄養がなければ、心も身体も育っていきません。子供も、そして大人も一対一の温かい関係が特に必要な時期ですよね。


個々の置かれている状況だけではなく、『相手の事情や心情に思いを寄せる』。すなわちエンパシーを持つことから、なにかの道筋が見えてくるかもしれません。


あなたにとって、今、小さくても温かい言葉をかけてみたい人は誰ですか。

Amanda holding a cat
猫大好き! Photo | Amanda Ivie

次回のテーマは、ポートランドスタイルという分野で『ロールモデル』になった人のケースを紹介します。新しい分野を切り開いて、このニュー・ノーマルをスムーズに移行するための知恵とは。4月15日掲載です!

 

記:各回にご登場いただいた方や記載団体に関するお問い合わせは、直接山本迄ご連絡頂ければ幸いです。本記事掲載にあたってのゲストとの合意上、直接のご連絡はお控えください。








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